新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

留褸 【はなルー HuGっと!プリキュア ハグプリ 百合小説】

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「ねぇ、ルールー」

 

 

 

ワタシの部屋。

 

 

膝に感じる温かさと柔らかな感触が、今尚メモリーに刻まれる。

 

 

 

「?」

 

 

 

「ルールーは、”痛さ” を感じるの?」

 

 

 

横向きに座る彼女が、持ち上げたワタシの手で遊ぶ。

 

 

 

「日々強まる感情は、知識を越えた非科学は、時に心を”痛く”します」

 

 

「オシマイダーとの戦闘でも、攻撃を食らえばダメージという”痛み”があります」

 

 

「勿論、掌を指で押された程度……造作もありませんが」

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

ニギニギと、その返事は何処か興味を欠いているような。

 

 

然れど、未だ口角の上がらない彼女は非常に物珍しく。

 

 

ワタシ自身は、どうにも興味を引かれる。

 

 

 

「はな が最も、そのこと を理解しているはずです」

 

 

「それなのに、何故そんなことを聞くので__」

 

 

 

「……」

 

 

 

「はな?」

 

 

 

今の問いに答えは来ず。

 

 

#D70076 が、ワタシの胸部へピトりと凭れ掛かる。

 

 

 

「ルールー、あったかい……」

 

 

「あと、柔らかい」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ちゃんと人肌で、まるで……人間みたい」

 

 

 

初めて上がった口角は、ワタシでも分かる程に事務的で。

 

 

嬉しさ、を表してはいない。

 

 

 

(人間……みたい………)

 

 

 

理解はしていても、その言葉にある種の否定を垣間見る。

 

 

 

(通常、何故だか心地良い感想ではない……はずなのに)

 

 

 

今の彼女は それ故に、風靡的。

 

 

 

「ごめんね、ルールー」

 

 

 

「?」

 

「どうして謝るのですか、はな は何も悪い事をしていません」

 

 

 

「してるよ」

 

 

 

「え……?」

 

 

 

胸部への沈みが、より深く。

 

 

 

「私ね、皆のこと信頼してるし大好き」

 

 

「けど、いや……だからかな」

 

 

「心配を掛けたくなくて、不安にさせたくなくて……笑顔を見せる」

 

 

 

淡々と。

 

 

 

「なのにルールーには、隠すことを自然と止めちゃう」

 

 

「身動きが取れないくらい くっ付いて、一方的に、ボヤく……」

 

 

 

左手を頭に乗せてワタシが撫でる間も、言葉は文章として並び行く。

 

 

 

「それに、何の問題があるのですか?」

 

 

 

誰にも見せない貴女を観察出来る、ワタシにとって不都合は無い。

 

 

 

「私 無意識の内に、ルールーを都合の良い機械として見ちゃってるのかなって……」

 

 

 

「都合の良い……とは?」

 

 

 

「……」

 

 

 

疑問を聞いた彼女の、僅かな悽愴。

 

 

反らした瞳に、迷い。

 

 

 

「ルールーはまだ、感情とか物事をちゃんと理解できてない」

 

 

「本当の私を見ても、こうやって膝の上に座っても、他の人より反応は薄くて」

 

 

「戸惑いよりも先に、私の望むようにしてくれる……」

 

 

 

握られた手から、彼女の震えが伝う。

 

 

 

「こんな私には、どうしても心地良くて……」

 

 

「その薄さ、淡白さに、甘えちゃってるんだと思う」

 

 

 

「__はな?」

 

 

 

句点を遮るように、ワタシの首を細い指々が包む。

 

 

くすぐったい ような感覚と、赤子に似た優しい温もり。

 

 

 

「ほら」

 

「こうやっても、あんまり驚いてない」

 

 

 

ほんの少し、ほんの少しずつ、締める力が強まっていく。

 

 

 

「アンドロイドだから?」

 

「金属だから、私には殺せないのも予測できちゃうの?」

 

 

 

「その可能性も、あるのかもしれません」

 

 

「ですがワタシは」

 

「はな になら、殺されても構わない」

 

 

 

「……」

 

 

 

光のボカされた瞳が 3.2% 見開くと。

 

 

沈んでいた指から力が無くなり、スルりと ほどけた。

 

 

 

「謝罪を述べる必要はありません」

 

 

「ワタシは今の貴女を迷惑等と思ったことは、ありませんから」

 

 

 

上目遣う彼女へ、微笑みかけて見せる。

 

 

自主的を含む笑みは、果たして上手く表せているのか。

 

 

ツヤのない水晶では、確認不能

 

 

 

「それに、はな はワタシへ甘え乗じている訳でも、利己的な訳でもない」

 

 

「……大好きだから、です」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

突拍子に、楚々な喫驚。

 

 

 

「ワタシが同じ立場にあった場合、いつもの貴女なら、きっとこう言うでしょう」

 

 

「―自分を思わず見せてしまうのも、苦悩を話してしまうのも、近くに居たいのも―」

 

「―それは “大好き” だからだよ―、と」

 

 

 

「大好き……だから………」

 

 

 

一語一句とは、到底言えない。

 

 

それでも救われた あの日から、誰より彼女の近くを過ごした。

 

 

 

「……ありがとう、ルールー」

 

 

 

“野乃はな” に成ることは、絶対的不可。

 

 

理解ではなく、深い憶測。

 

 

 

「はな」

 

「もう一つの貴女を見つめるのも、傾聴も、寄り添うのも、また同じ」

 

 

「ワタシも、はな が大s__」

 

 

 

寸秒、演算処理装置の停止。

 

 

首に腕が回され、柔らかな唇が重なっていた。

 

 

 

「はな……」

 

 

 

CPUが正常に動作する頃には、離れた口元が艶やかに笑っている。

 

 

 

「ねえ、ルールー」

 

 

「今日は ”前のルールー” で、シてほしいな」

 

 

 

「……」

 

「………フフッ」

 

 

 

どんなに高度な知能と経時も結局、彼女を予測するに事足りない。

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

「__ッグ」

 

 

 

首を掴み、彼女を押し倒す。

 

 

寝具に後頭部を落とした桃紅の、小さな呻き。

 

 

 

「ガ__ッア」

 

 

 

掛けた指に力を籠め、頬を染める少女の片息に昂るコアユニット。

 

 

 

 

 

 

 

「はn……マスターの命により」

 

 

 

潤む瞳に映るワタシは替わっている、あの頃の出で立ちへ。

 

 

 

「野乃はな」

 

 

「アナタを、コワれるほどに」

 

 

 

 

 

 

 

「アイします」

 

 

 

もう、何回目なのか。

 

 

数える事が非効率だと気付いた日から、幾度 続いているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「グ……ン”ッ__」

 

「いいよ、来て……ルールーッ」

 

 

 

高揚する彼女、アスパワーは無い。

 

 

だが、酷く幸福そうにハニかむ心情は本当で。

 

 

 

故に。

 

 

ひとしお極まる、妖艶。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

皆と会話する彼女は、何一つ変わらない。

 

 

いつも通りの、万人の知る ”野乃はな” に戻っていた。

 

 

 

(正確には ”皆と居る時の” 、野乃はな に)

 

 

 

少し抜けていて、底抜けに明るく、咲かせる笑顔は広く伝達する。

 

 

満ち満ちるアスパワー、溢れた眩耀の示す未来。

 

 

 

(……)

 

 

 

どちらも、大好きで。

 

 

どちらも、美しい。

 

 

 

故にか、否か。

 

 

 

ワタシの中枢部、沁み渡るようなこの感覚は一体なんだ。

 

 

くすぐったい、けれど心地良い。

 

 

 

(……皆さんは、知らない)

 

 

(ワタシが……ワタシだけが、知っている)

 

 

 

例えるなら、支配欲と庇護欲の狭間。

 

 

経験したことのない幸福感。

 

 

自然と上がる口角を、抑えることができない。

 

 

 

「?」

 

「どうしたの、ルールー?」

 

 

 

「……いえ」

 

 

「なんでもありませんよ、はな」

 

 

 

 

 

 

 

二人になれば、また枯れる。

 

 

萎れた内の多幸、芽吹く外の希望。

 

 

繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、まただ。

 

 

言い得ぬ高揚。

 

 

この感情は、何なのだろう?

 

 

 

太陽の貴女に口付けを。【短編 百合 小説 ネトゲ MMO】

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「……はぁ」

 

 

 

 

意味もなく、不意にタメ息一つ。

 

潮風が、甘いバニラカラーの髪を扇ぐ。

 

 

 

「今日の日課は終わったし、サムガソンもやったし、後は………帰るだけだな」

 

 

 

いつもの作業を終わらせて。

 

何の気なく立ち寄ったインオムルの町。

 

 

 

普段なら、このまま家に帰るだけ。

 

今日を除いては。

 

 

 

「やぁ、オルムくん♪」

 

 

 

「ぴゃ゜っ?!!」

 

 

「あ、あ……テ、テヤンさん……………」

 

 

「あ、あの…あ、こ……こんにちは……」ペコリ

 

 

 

「フフッ、こんにちは」

 

 

 

テヤン・グルム

 

ワタシと同じチームに所属している、靡く金色が良く似合う人間。

 

シトリンのような瞳が、その奥にワタシを閉じ込める。

 

 

 

「こんなところで君に会えるなんて、奇遇だね」

 

 

 

「えっ、あ……あの………わたワタシもテヤンさんに会えて……嬉しいです//」

 

 

 

キョドキョドと。

 

舌は回らないが、目は回る。

 

 

 

「まぁ立ち話もなんだし、良ければ…」スッ

 

 

 

「ッ//」ドキッ

 

 

 

や、柔らかくて……温かい。

 

優しくワタシの手を取る彼女が、上品に眼前を差し示した。

 

 

 

「お茶でも、ご一緒に」ニコリ

 

 

 

「…ひゃ、ひゃい///」

 

 

 

我ながら、ダサい了承だと思う。

 

 

だが、創造物である整った趣きが微笑みかけてくることに。

 

どうして冷静でいられよう。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」ゴクッ

 

 

 

(冷たいな……)

 

 

(いや、というか………会話が……)

 

 

 

運ばれてきたドリンク二つ。

 

彼女が頼んだそれと同じジンジャーエールは、光を通して金色に陰り。

 

ストローを咥える口元に胸が高鳴って、遠くを見詰める瞳に心嘶いて。

 

 

 

されど会話は乾いたままだ。

 

 

 

(やべぇな、これ………)

 

(人と会話って、どうすれば良いのだ?)

 

(下手に会話を切り出すと転けそうだし……)

 

(しかし、このままでは……テヤンさんを退屈させてしまう)

 

(ていうか、顔が良すぎて直視出来んぞ……)

 

 

 

頭の中ならマシンガントークも余裕だが、声に出そうとすると輪ゴム銃よりも軟弱で。

 

ひたすら水面に揺れるワタシが、助けを求める。

 

 

 

「君って…」

 

 

 

「ひゃい//」ビクッ

 

 

 

「冒険日誌で見ていたよりも、静かなんだね」ニコ

 

 

 

「へっ?//」

「あ、あの…えっ、え、あっ……は、はい……」

 

「そ、そうで……すね//」

 

 

 

乾いた会話が潤うことを願ったが。

 

いざ潤うと、ワタシはすぐにでも溺れてしまう。

 

 

 

「あれは、その……キャラと言いますか……なんと、言いますか…………」

 

「す、すみま……せん」

 

 

 

意図も簡単に、持ち前のキャラクターを否定してしまった。

 

ギャップに引かれてしまったかなんて、考えた不安は杞憂に過ぎない。

 

 

 

「いや」ニコ

 

「物静かな君も素敵だよ」

 

 

 

「……///」

 

「あ、ありがとう……ございまひゅ///」カァ

 

 

 

息を吐くように、言葉は透き通っていて。

 

息を吐くように、ワタシの心は乱れる。

 

 

 

「あ、あの……」

 

「今日はインオムルで……その、何かされていたのですか?」

 

 

 

「特別用事があった訳ではないかな」

 

 

日課をこなして、後は町をフラフラと歩いていただけさ」

 

 

 

「そ、そうなんで……ですね」

 

 

 

「でも、今日はインオムルを歩いて良かった」

 

 

 

「えっ、と…そうなの……ですか?」

 

 

 

こんなにカタコトと改まった言動は、恐らく面接日以来だろうか。

 

思い出したくは……ない。

 

 

 

「君に出会えたことが、何よりの幸福だ」

 

「君も、私と同じ幸福を感じていると良いんだけどね」

 

 

 

「……ッ///」

 

「あ……あぁ、の……嬉しいです//」

 

 

「ワタシも……あ、会えて凄く幸福……感じています…………///」

 

 

 

何故こうも。

 

 

心臓を撫でるように、甘い言葉が出てくるのか。

 

 

中枢部。

 

 

体の内で、骨が擽られるような快感がざわめく。

 

 

 

「フフッ、それなら良かった」

 

 

 

「///」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ところで……」

 

 

 

カラン。

 

金色に浮かぶ氷塊が、濁りのない音色と共に崩れる。

 

 

 

「さっき君はタメ息をついていたようだけど…」

 

「何か、あったのかい?」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

「もし思う事があったのなら、吐き出すと楽になるかもしれないよ」ホホエミ

 

 

 

「……ぁ///」

 

 

 

頬杖をつきながら、こちらに微笑みかける彼女はまるで。

 

大昔、母から感じた温もりによく似ていて。

 

皮も、肉も、細胞も。

 

 

沸騰する血液を混じらせて、溶ける。

 

ドロドロと。

 

 

 

「………」

 

 

 

意味もない、不意のタメ息。

 

 

だがそれは、本当に無意識で。

 

 

片隅でベトベトと這いつくばるナニかが、自分を隠せと息のヴェールに身を包んでいた。

 

 

 

「……ぁ……あっ、と……」

 

 

 

「……」

 

 

 

何時までも、青い星が黒くなるその日まで。

 

 

どれだけの悠久をも、この笑顔はワタシを見捨てはしまいだろう。

 

 

 

(でも、流石に……言えないよな)

 

 

 

言えない。

 

きっと、言わない。

 

 

 

「実は……ワタシ………」

 

 

 

止めろ。

 

口を開くな。

 

 

その温かさに惑わされるな。

 

 

止めろ、ワたシ私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシって、存在する意味ありますかね?」

 

 

 

……。

 

また、始まったよ。

 

 

 

「!」 

 

「それは、一体……?」

 

 

 

少し驚いたように、麗黄の瞳が光る。

 

 

 

「分からなく、なったんです」

 

「ワタシ自身が」

 

 

「この世界へ逃げてきて、何かが変わると…」

 

「何かを変えられると、思ってました。」

 

 

 

込み上げる物体が飛び出ないよう、必死に口を塞いだことが仇となる。

 

 

貯まった膿が、肥大化した頭を破き去り。

 

一斉に外へと飛び散った。

 

 

 

「でも、何も変わりませんでした」

 

「何十年、日陰だけを歩いて来たワタシでは」

 

 

「この世界ですら、馴染めませんでした」

 

「街行く人達の声が、全部ワタシの罵倒に聞こえました」

 

「疎外感で心が穴空きでした」

 

 

 

断面を晒した首が、食道をパクパクと震わせる。

 

 

コロコロと転がる眼球は、真上にのさばる太陽熱に焦げあがる。

 

 

 

「結局は、ご覧の通りです」

 

 

「ただ一人で、冒険」

 

「誰も頼れない、誰にも頼られない」

 

「ワタシが人を頼ってはいけない」

 

 

「折角ワタシに近付いてくれるのに、ワタシはその人達すら頼れなくて……」

 

 

「もちろん、テヤンさんも……含めて」

 

 

 

真剣に、ただ。

 

ただただ黙って、ワタシを見詰めている。

 

 

もう無駄だよ。

 

いくらそのトパーズを光らせたって、血溜まりにお前が映るだけ。

 

 

 

「誰とも関わらない、ただ人という窒素に紛れて酸素を吸う」

 

「元の世界と、何も……変わらない」

 

 

「変えられない」

 

 

「ただイタズラに人を、逃げる目的を周りに創るだけ」

 

 

 

 

今まで、ワタシの死体に触れた人間は居ない。

 

 

皆、足をもがれジタバタと這い回るゴミ虫を見るように引いては。

 

 

何処かへ消えた。

 

 

 

「何も変わらない変えられない、そんなワタシは居ても居なくとも何も変わらない」

 

「なら」

 

「どうせなら、居ない方が良い」

 

 

 

目玉がポップコーンのように弾けて踊る。

 

 

頭髪が潮風に揺れて混乱していた。

 

 

肉片が行き場を失い。

 

 

血液が、アスファルトに染みた。

 

 

 

「…………」フム

 

「なるほど、ね」

 

 

 

「確かに、君が消えて悲しむ人間なんて……」

 

 

 

 

 

 

 

居ないだろうね、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

そう告げる彼女に。

 

鼓膜が外界の空気を嫌った。

 

 

 

なんで、話したんだ。

 

 

 

こうなることは、分かっ__

「私だけを、除いてね」

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

分かって……。

 

 

いなかったのは、ワタシか?

 

 

 

「それは…………意味が少し……」

 

 

 

「そのままの意味だよ」ギュッ

 

 

 

「……」

 

 

 

その目は、笑っていない。

 

ワタシだけを映している。

 

 

力強い瞳。

 

 

 

「始めに語った言葉は、嘘じゃない」

 

 

「私は君と話すこと、君の声を聞く事に、私自身の意味を見出だしている」

 

 

「君が生きること、君がその内で血を循環させている」

 

「それだけで、私は嬉しいんだよ」ニコ

 

 

 

「……//」

 

 

 

何もしない。

 

していない。

 

 

ワタシ、という何かが"存在"しているだけ。

 

 

それが彼女の幸福。

 

 

居る意味。

 

 

 

「居なくて良い訳がない」

 

「いや、居ること意外出来ないよ」

 

 

「私は君に居る意味を持つ、そして君は私に居る意味を持たされている」

 

 

「どちらも欠けることは出来ないし」

 

「させる訳がないだろう?」

 

 

 

初めてだ。

 

 

目の前に散らばったワタシに。

 

 

笑顔を向けた人間は。

 

 

 

「……////」

 

 

 

目玉を肉片を頭髪を頭のない体を。

 

 

彼女は。

 

 

とても熟れいた、幸福に満ちた顔で。

 

 

頬ずりする。

 

 

 

「……」

 

「あ、ありがとう……ご、ございます///」

 

 

「そんなこと、言われた……の……初めてです」

 

 

 

「フフッ、やっと笑ってくれたね」

 

 

 

「///」

 

 

 

ワタシを消さない。

 

温かい程度の太陽。

 

 

これが、ワタシの太陽。

 

 

 

「……ふわぁ」アクビ

 

 

 

「あ、す…すみません」

 

「その、つま……つまらなかったです……よね」

 

 

 

「あぁ、いや」

 

「そういう訳じゃあないんだ」

 

 

 

彼女はそんなわけないだろと言うように、手の平を左右に振る。

 

 

 

「前にも言ったかもだけど、私は夜行性でね」

 

「夜に動くから、朝は……今の時間は寝ているんだよ」

 

 

 

「……あ」

 

「そういえば、そうでしたね」

 

 

 

「君と話していて忘れていたが、それでも限界が来てしまったらしい…」ニガワライ

 

 

 

「…またそうやって//」

 

 

 

シラフで、ここまで人の心を掻き回すのは。

 

彼女が、ワタシを求める故だろうか。

 

 

 

「さて、名残惜しいけど」

 

「今日は、そろそろ帰るとするよ」

 

 

 

「あ、えっと……は、はい」

 

 

 

「あ、あの!!」

 

 

 

「…?」

「どうしたんだい」

 

 

 

「今日は、その……」

 

「お話出来て、とても……嬉しかったです///」

 

 

 

「!」

 

「…そうか」ニコ

 

 

 

太陽の逆光で、笑う口元だけが目立つ。

 

 

 

「私も、君と話せて良かった」

 

 

 

彼女とワタシの首元に、鎖が付いていて。

 

 

伸びた先は、お互いで。

 

 

近付く度に、離れる度に。

 

 

血と肉が、ボトボトと崩れる。

 

 

 

「えっと……」

 

「お、お休みなさい///」

 

 

 

ただの、別れの挨拶。

 

 

 

「あぁ」スッ

 

 

 

「?//」

 

 

 

向こうから言葉で返ってくるだけ。

 

それだけだった筈だ。

 

 

 

チュッ

 

 

 

「!?!?…ッ/////」ボンッ

 

 

 

口の中。

 

 

ジンジャーエールの味がする。

 

 

 

「お休み」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の太陽。

 

 

蛾夢 【オリジナル短編 小説 肉塊】

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夕光に焼かれた、黒と橙の梯子。

 

 

 

眩しい、暗い、眩しい、暗い。

 

 

 

帰路に並ぶ木々。

 

 

 

ふと見た、その一本。

 

 

 

ガムで張り付けられた、蛾が一匹。

 

 

 

拘束はまだ新しい、色落ちた粘着からヒョロり出た節足が絶えず手招く。

 

 

 

ただ、それだけ。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 

「おかえり、お姉ちゃん!」

 

 

 

帰るや否や、漂う鉄臭と尻尾を振って来た成人女性の出迎え。

 

 

歳の割に、ミテクレでよくモテる。

 

 

 

「だからー、私はアンタの姉じゃないっての」

 

 

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんなの!」

 

 

 

「なんだよ、その自信は……」

 

 

 

頬をプックりと膨らませる、私の母。

 

 

 

「そうだ、ガム食べる?」

 

 

 

「話変えるな」

 

 

 

「食べる?」

 

 

 

「……じゃあ食べる」

 

 

 

聞いているのか、聞いていないのか。

 

 

ただ自分の直線上だけを見据え、水平の割り込みなど気付いてもいないのだろう。

 

 

ただ、私の言葉に目を輝かせたのは、聞いている証拠だが。

 

 

 

「じゃあ、はい!」

 

 

 

「は?」

 

 

 

モチャモチャと一吹き、まとめた破裂物を乗せた舌。

 

 

 

「え、ソレ食うの?」

 

 

 

母は、頷いて指し示す。

 

 

 

「はぁ……衛生的にどうなんこれ」

 

 

「ハムッ」

 

 

 

言い出すと聞かない疾患少女の対処は、一先ず実行。

 

 

生暖かいゴムを口へ放り込み、靴を脱ぎ、たまに噛む。

 

 

 

「どう、どう?」

 

 

 

「なんか、アーモンドの皮みたいなの入ってるんだけど……」

 

 

 

「あはは、アーモンドの皮じゃくて蛾だよ♪」

 

 

 

渡り廊下は、最悪な踏み心地だ。

 

 

正体を探る為に口内で転がせた数だけ、後悔は止めどない。

 

 

 

「聞きたくなかった……」

 

 

 

「あはは!」

 

 

 

踊る人形のような妹モドキ、苦虫を噛み潰した私へ楽しげに笑う。

 

 

 

(あぁもう、ダルい)

 

 

 

元に戻らないとしても、せめて。

 

 

あと少し、もう少し見た目に似合う精神年齢へ成長してくれれば。

 

 

 

 

 

 

 

「ご飯、食べた?」

 

 

 

「食べない!」

 

 

 

軋む木目。

 

 

薄暗さの中、過ぎた季節のカレンダー。

 

 

 

「”食べたい か 食べたくないか” じゃあない、”食べた か 食べてないか” を聞いているんだよ」

 

 

 

「……少しだけ、ツマミ食いしました」

 

 

 

「普通の飯は食っていない、と」

 

 

 

漏れる光が近付くにつれ、酸味混じりの金属感は触覚すら伝う。

 

 

温かい、冷たい、温かい、冷たい。

 

 

時折、柔い。

 

 

 

「……」

 

 

 

捻るL字、内に仰け反る頭一つ違う扉。

 

 

 

「………はぁ」

 

 

 

家具は 捨てていた、だだっ広い長方形の黒ずむ角。

 

 

敷き詰めたスチール板、足裏を霜焼けさせる冷たさ。

 

 

いつか変わっていれば、陳腐なタラレバ。

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「どうしたの」

 

 

 

「ずっと、やってたの?」

 

 

 

「?」

 

 

 

不思議そうに、傾げた小首。

 

 

照明が染みる目。

 

 

瞳孔が靴擦れを克服した頃、一度見た景色が再び景色として甦る。

 

 

 

「コレだよ」

 

 

 

低脳に理解させるコツは矢印の示し。

 

 

彼女の服が明かりで鮮明と、カピカピた瘡蓋のように。

 

 

唯一の陰り、違法建築。

 

 

 

「一日、ずっとさ……」

 

 

 

破瓜済より後方の合わさるピント。

 

 

赤、黄色、白、ピンク。

 

 

マーブルと言えば心地良い、然れど垂れている粘性と微かな痙攣。

 

 

 

文字通りの骨組み、引き剥いで縫い合わせた皮膚の前後翅。

 

 

大小あらゆる胴の輪切りの腹部へ、巻いた小腸で服節の再現。

 

 

上半身と股を脊髄で結んだ胸部、腕が脚になり、先には下顎がくっ付いている。

 

 

 

肉、骨。

 

 

 

既視感は、5分前。

 

 

 

「ああ!、この子!」

 

 

「ようやく完成しちゃうかも?」

 

 

 

老若男女の年月で、飾毛と尾毛纏わせ。

 

 

 

紛いなくそれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

一体の、大きな蛾。

 

 

 

 

 

 

 

「一日を浪費してまで、楽しいのかな」

 

 

 

肉塊が切り貼りされ、蛾の姿を形成させられている。

 

 

 

「楽しいよ!」

 

 

「お姉ちゃんも楽しい、でしょ?」

 

 

 

「私は作ってねえよ」

 

 

 

使う予定の、あるいは、”はずだった”。

 

 

昨日まで居なかった顔ぶれ、集るハエも蛆が勝る数。

 

 

 

「お姉ちゃんは、ワタシの家族?」

 

 

 

「え……まぁ………」

 

 

 

「なら楽しい、お姉ちゃんも楽しいの一人」

 

 

 

呆れをバブルに。

 

 

混ざる羽や吸胃、連なる卵巣はまるでボールチェーン。

 

 

2~3匹の名も知らない小虫が糊着、視認後 吐き捨てたガム。

 

 

 

「血の繋がりは、道連れの免罪符じゃない」

 

 

「アンタが勝手に始めて、私の人生における足枷となっているだけだ」

 

 

 

「むぅ……」

 

 

 

見飽きた顰め。

 

 

 

「だいたいさ、なんで蛾なの?」

 

 

 

無許可で登り出した幼虫を適当にあしらい、震源へ数歩。

 

 

あ、潰したわ。

 

 

 

「えー?」

 

 

 

「虫は種類の多い塵芥、創るにしたって候補は沢山あったはず」

 

 

「カブトムシにカマキリ、蜘蛛」

 

 

 

ポツリポツリ、未完成頭部の表面から沸いては落ちる朱と白糸。

 

 

大きな部位の隙間はミンチや指、解した小腸を敷き詰めている。

 

 

 

「せめてさあ、蝶々とかで良くない?」

 

 

 

解れた筋が暴れるためか、触れずとも脈打つ。

 

 

 

「ダメ」

 

 

 

「どうして」

 

 

 

「夢、小さいころの!」

 

 

 

隣へ並ぶ肩は右上がり、厭悪と死臭に思わず大股一歩横へ。

 

 

 

「夢?」

 

 

 

「そう、夢」

 

 

 

両手を広げ、微か仰ぐ天。

 

 

吊られた汚肉、ワイヤーは言葉と共に軋轢を鳴らす。

 

 

 

「おっきーな蛾、それが空を飛んでたら」

 

 

「とっても、キレイかもって!」

 

 

 

「勘弁してほしいな、それは……」

 

 

 

想像は豊かに、舞う黒紅は高らかに。

 

 

浮かぶ非現実の誘う鳥肌。

 

 

優雅や楚々さなど微塵と無い、ただただ気色の悪い景色のみ。

 

 

 

「お姉ちゃん、お母さんみたいなこと、言う」

 

 

 

孤愁を漂わせる一毫の俯瞰、肯定ではなく馳せるあの頃。

 

 

 

「アンタだよ、その ”お母さん” は」

 

 

 

「違うもん!」

 

 

 

一縷の尊厳、押し伏す否定。

 

 

冗談に立腹する妹などと、和みのガセ情景は滑稽も甚だしく。

 

 

 

「……あっそ」

 

 

 

雑返事。

 

 

 

 

 

 

どうせ、戻りはしない。

 

 

ある日 忽然と、死の香る玄関先。

 

 

 

無邪気に重なる肉。

 

 

事実を受け入れるに、十分過ぎた。

 

 

 

予兆もない、理由もない。

 

 

抱きつく自称妹は狂っておらず、その母は壊れていた。

 

 

 

幾つと蛾はガムに固定され、腐乱に沸いた蛆が突つく。

 

 

 

 

 

 

「何やってんの、アンタ」

 

 

 

いつもの鼻唄と出迎えが、響くは施錠だけの明くる日。

 

 

光を漏らす扉の先。

 

 

巨大な完全蛾、その側で横たわる、首の無い粗大ゴミ。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

「ちゃんと、片付けてよ」

 

 

 

括れのない頭、蝸牛の口吻は脊柱。

 

 

肋の触角、広がる羽毛状。

 

 

分割した骨盤が下唇鬚となり、非対称の複眼が 全てぶち壊す。

 

 

 

片方は誰かの胎児。

 

 

無理に詰めたせいか、骨が一部ひり出てしまっている。

 

 

 

片方は、母。

 

 

覚束ぬ足取りで押し込んだ、斬り千切ったソレ。

 

 

瞳は曇り空、瞼の裏から蟲。

 

 

田畑で伸びる作物のように、生えた白長い蛆が踊り舞う。

 

 

 

「やっと居なくなったのは良いとして……」

 

 

「このデカい塊、どうしよう……」

 

 

 

血溜まりを埋めるボウフラ、蜘蛛の巣に捕らわれた小指。

 

 

蛾を運ぶ蟻々、挨拶を交わす ”蜚蠊” の大家族。

 

 

 

 

 

 

 

全てはあの、集肉体が震源地。

 

 

 

生きていようが、死んでしまえど、友呼ぶ類は煩わせるのか。

 

 

 

汚れて汚物を産んで、最後の母は不愉快と滑稽そのものだった。

 

 

 

「あー、面倒くさい」

 

 

「………」

 

 

「……明日 片付けよ」

 

 

 

 

 

 

『上空を飛来する蛾のような物体は今尚、多くの人々に目撃されています』

 

 

『人への直接的な敵対は見受けられませんが、降り注ぐ 蛆 が問題となっているようです』

 

 

『次のニュースです___』

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

 

肉塊はポッカりと、消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

壁が大きく吹き抜けて、晨風浴びる眼前に見たモノは、まさしく生物で。

 

 

手間が省けた喜びと気色悪い朱虫への嫌悪は、記憶に新しい。

 

 

 

「うわ」

 

 

 

帰路。

 

 

夕より暗く紅い死臭が、またも私の頭上をバサバサと。

 

 

 

「あれだけの大きさが飛んでたら、キモくて仕方ないな」

 

 

 

 

 

 

 

ふと目を向けた木、その一本。

 

 

ガムで張り付けられた蛾は相も変わらず、惨めに手招く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、忘れ溢した断片。

 

 

 

「ねえ!見て、お母さん!」

 

 

 

「うん?」

 

 

 

「ちょうちょ!」

 

 

 

手を引く少女に、ミテクレの良い女性。

 

 

 

「あー」

 

「これは蝶々じゃなくて、蛾だね」

 

 

 

「ガ?」

 

 

 

「そ、蛾」

 

 

 

「ちょうちょ じゃないの?」

 

 

 

「うーん……明確には違わないけど、ちょっとだけ違うみたいな」

 

 

 

「へー……」

 

 

 

樹と合わさるような木目柄。

 

 

4つの瞳が、閉じては開く、繰り返し。

 

 

 

「ねえ、お母さん」

 

 

「おっきーな この子が空をトんでたら、とってもキレイでステキかも!」

 

 

 

どうして、美しく思えたのかな。

 

 

 

「それはちょっと、お母さん的には勘弁してほしいかなー……」

 

 

 

「えー?」

 

 

 

些細な狂気。

 

 

能無しが戯れる、抽象の絵空事

 

 

 

「さ、そろそろ行こっか」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

温かかった、手。

 

 

 

「お夕飯は何食べたい?」

 

 

 

「えっとねー……__」

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの断片。

 

 

誰と知らぬ間に、腐り消える。

 

孤面―KOMENDO― 【小説】

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低く唸るような、女性の声。

 

 

 

なのに、不思議と心地良く。

 

 

 

安心さえするような、サラセニアフラバ。

 

 

 

そんな声が、語りかける。

 

 

 

無機質な仮面が、私に。

 

 

 

 

 

 

 

『”世界を救う孤独者”に、なってみる気はないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

結局 何一つ、頭に入ることのなかった授業。

 

 

窓際の机、頬杖て。

 

 

吹く入る風は輪郭を知りたがる。

 

 

 

「ク……?」

 

「……ねぇ、ピク?」

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

添えられた肩の手、辿る元は同級生。

 

 

首を傾げ、見おろして。

 

 

 

「あ……うん、どうしたの?」

 

 

 

「それはこっちのセリフ、中々反応がないんだもん」

 

 

 

「ご、ごめん……」

 

 

 

正直言って、今の私に心も何もありはせず。

 

 

出たのは無機質な、謝罪の言葉。

 

 

 

「珍しいね、何か悩み事が?」

 

 

 

微笑む彼女に、渡してしまおうかなんて。

 

 

 

「ぁ……え、えっと」

 

「別に、そういうのじゃなくて……ね」

 

 

 

衝動に似た臆しを誤魔化して、下手な笑いと手振りで濁す。

 

 

白も蒼の気配さえ、圧する霧は掻き消えてしまえと。

 

 

 

「あ、ごめん!」

 

 

「今日はもう帰るね……そ、それじゃ」

 

 

 

伸ばし損ねた手が、小さな声と置かれる背中。

 

 

そそくさと教室を後にする、残した罪悪感と鞄を引っ提げて。

 

 

 

 

 

 

結び点が左右で異なるツインテール

 

 

揺れる重きの違い。

 

 

先述の訳が、雑さをボカした故。

 

 

 

「はぁ………」

 

 

 

友の気遣いを無下にして、そういえば一緒に帰る約束を思い出して。

 

 

ほっぽし逃げた果て、一人でタメ息と徘徊。

 

 

 

「何やってるのかな、私」

 

 

 

自宅を目指さずウロノロ ウロノロ

 

 

下る夕に嘲笑され、鞄に増えた 微かな重し に憎さ3倍。

 

 

よし。

 

 

 

「諦めよt___ッ」

 

 

 

切り替えようと上げた面、映る土煙はそう遠くない場所。

 

 

鼓膜に響く轟音、徐々に民衆が悲鳴で対抗。

 

 

 

「ッ!」

 

 

「今の……今のが?」

 

 

 

嗚呼、どうしよう。

 

 

いざ事が起こると、背中がヒンヤリしてきた。

 

 

喚く生物達と同方向へ、しかしコンパスの赤が許しはせず。

 

 

 

「……クッ」

 

 

 

 

 

 

 

背く踵、流れに反す孤独。

 

 

 

 

 

 

「▼▼▼!!」

 

 

 

「ねえ……」

 

「あれが、そう……なの?」

 

 

 

怪なくして、煙は無い。

 

 

 

『ああ、間違いない』

 

 

 

取り出した”お面”に見せた景色、だだっ広い公園がお似合いの巨体。

 

 

赤黒い温かみが絡み合って、人型を形成していた。

 

 

目前に。

 

 

 

「お、思ったより……大きいなあ………」

 

 

 

”怪物” が居る、私の目前に。

 

 

 

「▼▼▼▼!」

 

 

 

木々は倒れ、遊具が萎み。

 

 

定期的に、轟声が待ちわびる。

 

 

 

移動と破壊が伝わっているのか、夥しい鼓動なのか、もはや分からない。

 

 

慰める汗の逆効果、滲む勇気。

 

 

 

『わざわざ歩き廻った甲斐があったようだ、迷いの絶ち切り時が来たぞ』

 

 

 

「………」

 

 

 

図星に一寸の我が帰り、尚も手は引き寄せず。

 

 

 

『……』

 

『逃げても、良いんだぞ』

 

 

 

「ッ」

 

 

 

『選択など直前で、いくらと変わって良い』

 

 

『戦うも逃げるも死ぬも、全て自由だ』

 

 

 

場が場であるためか。

 

 

痺れを切らせ、低音は諭し始める。

 

 

 

『ただ、どちらにせよ』

 

『変身自体は早く、した方がいい』

 

 

 

「それってどうい……」

 

 

 

『相手が気付いた』

 

 

 

「ッ__」

 

 

 

詰まる息、危うく心停止しかけるほど。

 

 

移す瞳が、生々しさに不相応な黒い仮面を捉えてしまう。

 

 

私の持つモノと似た無機質と、真っ直ぐ見つめる違い。

 

 

 

「▼▼?」

 

 

 

「ホントに目、こっち見てるじゃん?!」

 

 

 

『それが ”気付いた” という行動だ』

 

 

 

冷めた返答。

 

 

 

『ピク』

 

 

 

「なな、何……孤面………」

 

 

 

『今一度、述べよう』

 

『ワタシは ”力” だが、束縛を持たぬ自由』

 

 

 

冷静な復唱に、浮かぶ走馬灯が初対面に置き換わっていく。

 

 

ツマミが捻られ、火が立つのを感じる。

 

 

 

『力 を使い相手を殴ろうが、この 力 で一目散に退散しようが、はたまた棒立ちだろうと』

 

 

『全て君の ”自由”』

 

 

 

「……」

 

 

 

ひっくり返して向ける表、目が合うはずもなく妙に落ち着く声色。

 

 

不審な私を警戒してか、巨怪の歩みはゆっくりと。

 

 

 

『殺人、救済、名誉』

 

 

『悪、偽善、正義、全てに優劣は無く』

 

 

『万生が成れる、君でなくとも』

 

 

 

説教じみた優しさが、早く装着しろと言われているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ヒーローは、誰にでも担える』

 

 

 

ただ、催促に難儀を示したい訳ではない。

 

 

 

『君である必要は、毛頭ない』

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

その瞬間ピクリと、震えていた手より消える表情。

 

 

泡がポコポコ、血サワー。

 

 

 

「……なんか、さっきから……ずっとさ」

 

 

 

姉から時折、ヘソ曲がりと言われた。

 

 

 

「私が逃げる前提だったり、偽善者みたいな言い方してない?」

 

 

 

『……』

 

 

 

即座に明答できないのは、億に一つ でも該しているから。

 

 

 

「昔からね、回りくどい要望と謝罪が私、大嫌いなんだ……」

 

 

「昨日からろくに過ごせないのも、根幹は貴女にある」

 

 

 

「戦い、世界を救って欲しいのなら」

 

 

「直球で、そう言えばいい」

 

 

 

望んでもいない邂逅。

 

 

提示された提案に自由が付いていたから、なまじどっち付かずで悩む羽目。

 

 

それでもドチラかになりたいと、切羽の急躁を求めた結果。

 

 

自由を被せて、逃げろだの無理だの。

 

 

 

「そっちから現れたクセに、ヒーローは私でなくても良い……?」

 

 

 

ブクブクブク、沸騰が大きな泡弾く。

 

 

後は火を、止めるだけ。

 

 

 

『敵との距離、20__』

 

 

 

「成るよ」

 

 

 

『?』

 

 

 

他で構わないと気遣われたら、唯一無二に成りたい偏屈。

 

 

 

「現る ”悪” を」

 

「貴女という ”偽善” を被り、倒して」

 

 

「私は、”正義” に成る!」

 

 

 

逃げていいと言うのなら、むしろ立ち向かう天ノ邪鬼。

 

 

 

『善的発言すらしていないワタシの、偽とは一体何だ?』

 

 

 

「こ、細かい事は気にしない……」

 

 

「声も話し方も内容も、偽善っぽいし」

 

 

 

自ら首を絞める人生。

 

 

損得の分量比は、いつだって 9:1 。

 

 

故に、私。

 

 

 

沿えば束縛、反すは自由。

 

 

代償ありき、だが後者。

 

 

 

「……」

 

 

 

深呼吸。

 

 

顔を上げ。

 

 

 

「変身!」

 

 

 

スナップを効かせ表裏転換、憧れの掛け声と共に面を着ける。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

「………あれ?」

 

 

 

も、変化無し。

 

 

 

「え、なんで」

 

「変身できないんだけどッ」

 

 

 

絵空事とは訳が違う』

 

 

 

近付く震跫、焦る心情。

 

 

遠回しな否定の一低声に、舌打つ愚行。

 

 

 

『引き金は ”コメンド” 、それで変身を可能とする』

 

 

 

「……肝要は、先回しが良いかな」

 

 

 

タメ息。

 

 

目線を上げ。

 

 

 

「コメンド!」

 

 

 

 

 

 

 

蠢く肉音が、また鮮明に。

 

 

 

『アクセントが少々違う、”マスクド” のニュアンスだ』

 

 

 

「……」

 

 

 

肩が落ち。

 

 

見上げた陰り、次が無く。

 

 

 

「コメンド」

 

 

「__ッ!」

 

 

 

光を挙げた体に、思わず手を離すが。

 

 

テンプルもバンドも無しに、依然と白面は落ちぬまま。

 

 

 

「▼▼!」

 

 

 

生意気に喫驚を、後退りで表現する黒固定面。

 

 

更なる威嚇、と。

 

 

見せつけるように紅梅がビビッど放つ、一際の光源。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

役割を終えたのか、桃輝はスパりと分散。

 

 

その様、定時に問答無用でシャッターを降ろす役場職員。

 

 

 

「……本当に、変身できた」

 

 

 

残された私は、ペタペタと頬に触れる。

 

 

 

仮面と肌に、境目が感じられない。

 

 

かと言って、陽気な緑に習った一体化とは相違気味。

 

 

硬感触は確か、接地面のみ溶け込む形で敷きならされている。

 

 

 

「▼ッ」

 

 

 

「おわッ?!」

 

 

 

浸る余韻もない、間一髪。

 

 

厚さ1mmは防げても、拳の直下を受け止めた両手より伝う重量。

 

 

足裏に届いて沈む地面、初 打たせ湯を思い起こす衝撃。

 

 

 

「グッ……うぅ」

 

 

 

「▼▼__!」

 

 

 

「うお………りゃッ」

 

 

 

目一杯退かす要領で、側方へ飛ばす。

 

 

捻るようにバランスを崩す肉怪。

 

 

脇腹へドロップキックしてみれば、下手クソながら距離を出せた。

 

 

 

(無痛じゃないけど、思っていたよりパワーが与えられてる)

 

 

 

 

マゼンタにボリュームを上げたツインテール、不思議と重くはない。

 

 

ラバーに似た質感のアンダースーツは、紛えぬほどピンク。

 

 

弓道着とセーラー服の間の子は胸部まで、スカートの短さは、恐らく機能美。

 

 

籠手と脚甲は どこか甲冑じみて、肩鎧に角が隆起。

 

 

 

「このリボン、邪魔じゃないかな」

 

 

 

ピッチリスーツに纏う服装は基本黒、ドデカい背腰のリボンが辛うじてチャーミング。

 

 

要所的に非対称なデザインは多分、あざとさ。

 

 

 

「お面が無ければ、もっとマシなのかな……」

 

 

 

戯れつつも、力 への疑いは霧となく。

 

 

苅安バリカーを抜け、尚 転げた害へ一歩一歩。

 

 

 

(うわ……)

 

 

 

ふとした道すがら、端々に映る無惨な遊具達の多出血。

 

 

潰れた小児や捻れた親子、余計な茶々で巻き込まれた誰か。

 

 

私が歩く地面もヌチョグチョで、今踏んだのは多分小腸。

 

 

 

『鼓動からして、動揺と脅えは明白』

 

 

『然るに表だった反応は薄い、慣れているのか?』

 

 

 

「道路で伸びてる猫に比べたら、かな」

 

 

 

あ、今の指だ。

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

起き上がり途中経過の巨体、それを尻目に気付いた”もしや”。

 

 

申し訳程度で生えた木々の下、原型を保つ震えに駆け寄る。

 

 

 

「ウッ……グ」

 

 

 

「やっぱり、生きてる!」

 

 

 

踞り待つは時経つ解決か、はたまた いつかの汁散を望んでいるのか。

 

 

 

「ねえ、貴女」

 

 

 

「へ……?」

 

「ッ?!」

 

 

 

この方向へ吹き飛ばず、良かった。

 

 

 

「此処は私に任せて、さあ早t__」

 

 

 

屈まない周到、伸ばす手の安堵。

 

 

 

「ヒィィ……ッ」

 

 

 

「?」

 

 

 

返ってきたのは、悲鳴。

 

 

 

「イヤ……ぁ」

 

 

 

四肢を あわふた、後退る微かな嗚咽。

 

 

こんな気色悪い仮面、無理もない。

 

 

 

「あ、えっと……」

 

 

「変な お面を付けてますが、私は怪物ではなくってですね」

 

 

 

「ヒェッ」

 

 

 

「一先ず危険なので__……って、あー」

 

 

 

ジリジリと詰めた、弁解虚しく。

 

 

逃げるように決死の足つきで、彼女は消え失せた。

 

 

 

「御礼の一言、あって良いと思うんだけどな」

 

 

 

命への執着、その必死さに癪。

 

 

 

『ピク、彼女に君の声は聞こえていないぞ』

 

 

 

「……どういう意味?」

 

 

 

後出すアドバイスに、眉が潜まる。

 

 

 

『孤独者は比喩に在らず』

 

『君達の声は一切、変身中に他者へ聞こえることはない』

 

 

 

「……」

 

 

「要点は先にって、そう言ったよね」

 

 

 

声色に黙り、寸秒後。

 

 

 

『申し訳ない』

 

 

『では御託の前に、一つ』

 

 

 

「な__」

 

 

 

『背後、脇腹』

 

 

 

「__にッ?!」

 

 

 

棒線口が発するより刹那、右脇腹に衝突。

 

 

“く”の字も束の間。

 

 

風圧を添えた、空と地の水切り。

 

 

 

 

 

 

 

「い”っ、た……ッ」

 

 

 

「▼▼▼!!」

 

 

 

咄嗟に掴んだバリカーで、なんとか勢いを殺したが。

 

 

机の角がめり込んだ際に似た鈍痛は、流石に殺し損ねる。

 

 

 

「完全に態勢を上げて……向かってきているなら、さ……」

 

 

「本当に、早く言って欲しかったよ……」

 

 

 

支えに徹する右手、ダメージ元を押さえる左手はほんの代役。

 

 

骨は無事、出血ゼロ。

 

 

 

『君の弁明を無下にするのは、気が引けた』

 

 

 

御託に爪が立ち、軋むゴム。

 

 

 

『それと、見返りを求める行為は偽善ではないのか?』

 

 

 

可笑しな気遣い、図星な指摘。

 

 

 

「ああもう……分かってるよッ」

 

 

 

負った痛みより募った怒り、圧倒的総数に上がる軍配ミルフィーユ。

 

 

ベラベラ喋る粗大ゴミ、悔しいかな。

 

 

 

「▼▼」

 

 

 

痛みは幾分と、和らいでいた。

 

 

 

(耐久性、力量)

 

 

 

片方を軸とし、一方の足を引く。

 

 

構えは低く、放つ一歩。

 

 

 

「▼!」

 

 

 

(まずったッ__)

 

 

 

目算20m、1秒。

 

 

赤身まみれた景色、ぶつかる直前で屈ませた膝。

 

 

溢る速度も上乗せて、地を離す。

 

 

 

「おわ、ちょ!」

 

 

 

風景は空と、見下ろす街並み。

 

 

思いがけぬ超跳躍は、戦う少女のテンプレート。

 

 

 

(直飛び でないにしても、ここまで高さを得られるとは……)

 

 

 

ビチビチと靡く、大ぶり髪。

 

 

感心 過ぎ去り、背がヒヤリ。

 

 

黒能面は無段階式に、視点を天から地へ。

 

 

 

「ウ……」

 

 

 

ジーンと、足裏から昇りくる負荷。

 

 

顔が顰むヒーロー着地。

 

 

 

「運動力、跳躍力」

 

「共に申し分なし、と」

 

 

 

ただし、距離のある落下は避けたい。

 

 

 

「▼▼▼!」

 

 

 

「__」

 

 

 

飛び越えた為に、ノイズは背中越し。

 

 

迫る。

 

 

 

「っと」

 

 

 

「▼ッ」

 

 

 

180°。

 

 

体返しと 回避は同時。

 

 

空振る肉握りで、私の居た平砂が歪む。

 

 

 

「良し、今度はしっかり避けられた!」

 

 

 

すかさず懐。

 

 

 

「御返し」

 

 

 

「__▼ッ」

 

 

 

中手指節関節から上腕骨頭へ伝う、殴打命中の好感触。

 

 

 

「まだまだッ」

 

 

 

後方へ転がる朱団子、よろけ混じりで踏ん張る様へ助走。

 

 

目前で捻り跳ね、威力は脚に。

 

 

 

「▼__」

 

 

 

回し蹴りが脇腹へ沈み。

 

 

 

「__▼ッ?!」

 

 

 

“く”の字も束の間。

 

 

水平に弾かれピチャピチャポチャ、ジャングルジムが受け止めた鳴動。

 

 

 

「▼”▼▼……ッ」

 

 

 

食い込む編み鉄、猪口才に悲痛な唸り。

 

 

一部絡まった肉と、伏した現状解決に、蠢く。

 

 

感じた既視感はいつかの赤子、有刺鉄線に着飾られていた艶笑譚。

 

 

即日撤去された敏捷さ。

 

 

 

「孤面」

 

 

 

『如何したかな』

 

 

 

「必殺技とかって、有る?」

 

 

 

猿真似ジークンドースタイルで、削がれた脈絡の乏しき問い。

 

 

 

『各々に定められた能力は無作為、故に必ず殺せると顕示は__』

 

 

 

「ねえ、”有る”かどうかの質問ならさ」

 

 

「”有る” か “無い”か、で答えてくれないかな」

 

 

 

チョッ切る与太予防線。

 

 

浪費お面へ突きつける、二本となった短糸。

 

 

 

『ある』

 

 

 

スルりと左一本、先端にはYESと書かれた白紙がペラり。

 

 

 

「発動は、どうすればいい?」

 

 

 

『初期微動は ”コマンド”』

 

 

『すまないが、後の言葉は君次第だ』

 

 

 

「了解、私次第ね」

 

 

 

文末を濁す非効率は、一旦捨て置く相槌。

 

 

 

「▼▼▼」

 

 

 

裂き剥がれる筋や皮、ブチビチと。

 

 

脈打ちに比例する血飛沫、再起の予兆と期待が催促止まず。

 

 

 

 

 

 

 

「__コマンドッ」

 

 

 

右手に激熱。

 

 

吹かれた火の粉は根を広げ、瞬時に腕を炎で満たす。

 

 

 

(腕、炎………パンチか)

 

 

 

泥臭い単調に咲く、魔法紛い。

 

 

 

「▼▼▼▼!!」

 

 

 

「フッ__ハッ__」

 

 

 

反復で詰め、距離を稼ぐ発作の心電図。

 

 

伸ばせば一線、上乗せる速度の一閃。

 

 

 

 

 

 

 

狙うは一点。

 

 

黒の面。

 

 

 

 

 

 

 

「バーン!」

 

 

 

「▼ッ___」

 

 

 

柔らかに、砕き進む拳。

 

 

トンネルが開通迫る頃、肉中へ炎が集結。

 

 

爆炎に頭部が膨張、風穴を開けるより先に、真横で破裂した。

 

 

 

「___」

 

 

 

爆散、右頬に付着する血肉と脳片。

 

 

粉々となった黒、虚しく途絶えた叫び。

 

 

 

(中身、人間だったんだ)

 

 

 

ラストヒットのスローアングルに類す余韻、小さな瞳に内を知る。

 

 

 

 

 

 

 

「……倒せた」

 

 

「いよっしゃ!」

 

 

 

ガッツポーズ、焦燥は皆無。

 

 

敵を倒したなら、もちろん次は。

 

 

 

「ん……っと」

 

 

 

境目に爪を掛け、ヌルり外れた硬質パック。

 

 

視界良好になったかと思えば、身なりは既に元通り。

 

 

 

ここで変身を解くと、脚が汚れるのでは。

 

 

思うも遅く、ローファー裏に湿着く脳梁へ、大きく悔恨。

 

 

 

「?」

 

 

「本当に、倒した……よね」

 

 

 

もちろん次は。

 

 

 

『仮面を破壊し、残るは文字通り肉塊』

 

 

 

「そう、それ」

 

 

 

『?』

 

 

 

辺りは血臓無象、スクラップ。

 

 

過去となるはずで、今尚続くバックトラップ。

 

 

 

「倒した後、敵の残骸が消えないのは何故?」

 

 

「それに遊具や中の人間も、修復されないまま……」

 

 

 

次は、旧に復す。

 

 

 

『君の思うヒーローは、それが常套なのか』

 

 

 

当たり前の如く、疑うこともなく。

 

 

 

「……」

 

 

 

『輓近で話したように、絵空事とは訳が違う』

 

 

『転がる血肉、壊れた固体』

 

 

『主犯を殺せば再生するのか?』

 

 

『結果 出来た死骸は、君を殺せば生き返るのか?』

 

 

 

睥睨を見上げる表面、ベラベラベラ。

 

 

蛇に足が生えて、十も百も。

 

 

 

「くどい、一行で言って」

 

 

 

『倒したとて過程含め、消えはしない』

 

 

 

つまり、固定観念

 

 

バカの一つ覚えが根付いていた私こそ、真に物知らぬ門徒

 

 

肩が落ち、腕が垂れ。

 

 

 

『従い行動は、御早めに』

 

 

 

仰ぐ空へ、舌を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

「あっそ……」

 

 

 

確信痛感、この婉曲非能不燃仮面と。

 

 

 

 

 

 

 

相容れることは、出来ない。

 

 

 

生きない姉 【姉妹 おねロリ 無職】

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ワタシには、お姉ちゃんがいる。

 

 

お姉ちゃんは高校を卒業しているけど、お仕事はしていない。

 

 

ワタシが学校に行く時間は まだ寝てて、お母さんもお仕事へ行った後に起きている。

 

 

 

朝起きて、ご飯を食べて。

 

 

またお布団に行って、寝る。

 

 

夕方頃に起きて、お風呂に入り、その後は自分の部屋で過ごす。

 

 

夜遅くまで起きて、いつの間にか寝室に戻って眠っている。

 

 

 

お姉ちゃんの顔を見られるのは、夕食の時。

 

 

およそ30分くらいだけ。

 

 

ご飯を食べたら歯磨きをして、直ぐに部屋へ戻ってしまうから。

 

 

 

ワタシが休日の日も、お姉ちゃんの行動が変わることはなく。

 

 

ワタシはテレビやゲームを片手間に、お姉ちゃんの寝顔を見る。

 

 

 

ワタシを含めた3人、そもそもあまり話をしないけど。

 

 

お姉ちゃんはより、お話しない。

 

 

“おはよう” や “お休み” なんて言葉は聞いたことがないし、ご飯の時も ”ご馳走さま” だけ。

 

 

 

たまに欲しい物を買う為に、お母さんとお出かけに行く。

 

 

お姉ちゃんは車の免許を持っているけど、自分で運転はしない。

 

 

そもそも、生涯で車を運転することはないと言っていたし。

 

 

無理矢理には取らされたけど、それがより駄目だったのかも。

 

 

お母さんがどれだけ誘っても はぐらかし、絶対に運転したがらない。

 

 

 

時折は外へ出るけど、その日の夜は決まって体調を崩す。

 

 

外に行かなくても、よく頭痛で苦しそうにしている。

 

 

お姉ちゃんはいつも疲れているようにフラフラして、アクビを沢山。

 

 

ボーッと、何かを考え込んでいる。

 

 

 

最初は働くよう諭してた お母さんも、今はお姉ちゃんに何も言わない。

 

 

元よりワタシ達に甘かったし、お姉ちゃんが自由を好んでいるのを知っていたから。

 

 

かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

それとも、お母さんも気付いてる?

 

 

 

お姉ちゃんが、長く生きるつもりがないこと。

 

 

 

 

 

 

 

ほんの出来心で盗み見たスマホのメモ帳。

 

 

 

『高校卒業後、頃合いを見て死ぬ』

 

 

 

お姉ちゃんが今 生きているのは、恐らくまだ、やりたいことが残っているから。

 

 

見たいアニメやゲーム、映画とか、創作。

 

 

それでも、もう二十歳を越えて。

 

 

お姉ちゃんは、どこか焦っている。

 

 

早く死なないと、でも もう少し……って。

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんはこう見えて、周りの感情にとても弱く。

 

 

お母さんやワタシに些細な不幸があると、顔をしかめる。

 

 

部屋に籠る理由の一つ。

 

 

苦しいとかツラいとかが嫌いで、死にたい理由の一つでもあるかも。

 

 

 

ワタシはお姉ちゃんが好き。

 

 

本当は優しいだとか、あったかいだとか、そんなテンプレートではなく。

 

 

どうしてだか、好きなんだ。

 

 

 

ある時。

 

 

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんはワタシ達のこと……どう思ってるの?」

 

 

 

「つまり?」

 

 

 

「うーん、例えば」

 

「妹が好きーとか、嫌いーとか……みたいな」

 

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 

お姉ちゃんは、会話や行動は最低限が好き。

 

 

遠回しな台詞 や 選択のない選択肢 が大嫌いで、会話に怒ることもある。

 

 

 

「私達は血が繋がっていて同じ所に住んでいる、それだけの他人だよ」

 

 

 

「たにん?」

 

 

 

「助け合う必要はないし、強制する必要もない」

 

「それが、きっと私の理想」

 

 

「だから、好きとか嫌いだとか……」

 

「考えたことも無かったよ」

 

 

 

お姉ちゃんは嘘を言ってなかった。

 

 

当たり前みたく、そう答えていた。

 

 

 

一緒に居たいようなこの気持ちは、ワタシだけの寂しさ。

 

 

それとも、責任転嫁?

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんはよく悩んでいる。

 

 

死ねない理由の一番は、ワタシ。

 

 

 

ワタシがもっと小さい時、お姉ちゃんはワタシに暴力を振るった。

 

 

怒りっぽくて、物に当たる癖があったから。

 

 

持ち上げて地面に投げ捨てたり、髪の一部を切ったり、よく頭を叩いたり。

 

 

一度 いっぱい泣きながら、丸くなって謝って以来は、しなくなったけど。

 

 

 

だから地獄に落ちてしまう可能性を考えて、唸っている。

 

 

不鮮明な死後、どれだけワタシが許しても。

 

 

神様がいるのなら、結局は分からない。

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんは、今日も家に居る。

 

 

最近、心臓付近に違和感があるらしい。

 

 

少し不安気に、胸を撫でてる。

 

 

 

 

 

 

 

ワタシは、お姉ちゃんが好きで。

 

 

運命に死んで、自由になって欲しいって。

 

 

思ってる。

 

 

 

素っ気ない、他人事。