新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【死宮】出典/子宮神秘性賛美会

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【2024/4/09】

 


ソレを知ったのは、小学校3年生の頃。

 


その存在から知れる美しさと素晴らしさの神秘性に感激を覚えたことを、今でもハッキリと覚えている。

 


「い”ッ……痛っ”t………よ」

 


「……//」

 


初めての行為実行は小学4年生の頃。

 

家庭科室に呼び出した大好きなあの娘を切り裂き取り出した子宮は、絵で見るよりも赤黒く血にまみれグニャリと柔い。

 

だが確かに感じるその温かさと妖艶に、幼いながらも腹部に熱いものを感じていた。

 


 


中学に入ってからはホルマリン漬けなる存在に加えより子宮の知識を幅広げ、更に子宮への執着を強くしていく。

 

その頃より、私の求める子宮は小学生女児の物へほぼ限定される。

 

この時ほど自身の性格が女性である事を、有り難く思ったことはない。

 

愛児達は何の警戒を見せることもなく近寄り、私を見上げた。

 

まさか同性相手に淫猥な行為をされる等、汁にも思っていなかったことだろう。

 

何が起きているのやら、ほとんど理解も及ばぬ低少脳。

 


「あ”ッ、助け……おかt………」

 


「……お母さんは、貴女だよ//」

 


こんなにも幼く無垢である子にも、既に体内には生命を宿す器が存在する。

 

その事実に、何度やっても下着をピトピトに濡らしていた。

 

柔物が取り出された後、目に光りを失った肉塊に微笑みかけ涙を流す。

 


「産まれてくれて、ありがとう」


「お母さん」

 


と。

 


 


高校を卒業し、大学に行くでもなく職に就くでもなく、私はただ麗行に没頭していた。

 

壁一面に飾られた女宮がホルマリンの中で世話しなく呼吸をし、帰宅した私という子供に優しく温度をくれる。

 

瓶の右下に貼られた所有者の細かな情報は、私なりの敬意の仕草。

 


しかし、小さくとも場所を取るのが神物性。

 


どうしようかと赤い宝石をひた撫でる私に、とある女性が訪ねてきた。

 


「貴女の脱子宮技術は相当のものだと伺っています」

 


どうでしょう。

 

そう言って渡されたのは、シンプルな白名刺。

 


「宜しければ、我が組織で働いてみませんか?」

 


組織の名前は、”KOGANE”。

 

話によるとこの組織は女児男児、つまるところ幼児の臓器を売買する経営をしている会社らしく。

 

その中でも女児の子宮というのは、数ある臓器等ゴミ同然に思える程高値で買い取られるそうだ。

 

しかしお客もそのものズバリが手に入れば、良いという訳でもなく。

 


「我々KOGANEは他社よりも、最も安く最も高品質、を売りとしています」

 


ただブチ取ってしまったようなお粗末な物では、当然商品は売れない。

 

そこで、一部組織の人間が私の子宮技術を見込み今に至る。

 


「……しかし」

 


「当然、報酬の方は贔屓されます」

 


「………」

 


正直、嫌だった。

 

私の子宮に対する思いは、カルト信者が偽りの神へ向けるそれと似て。

 

いわば神格化であり、女児への戯れは偉大な母への帰還であり、その行為をお金稼ぎの行動になんてしたくなかった。

 


けれど。

 


これからも続く麗行に、資金が必要であることもまた事実。

 


「……わかりました」

 


より広い部屋を創り、より多くの麗若き幼女の母なる器を迎える為に。

 

嫌々ながらも、頷くしかなかった。

 


 


仕事を始めて数週間。

 

以前となんら生活が変わることもなく、ただ気に入った娘を見つけては下着を濡らす日々。

 

一つ変わっているとすれば、特に気を惹かれてもいない女児の子宮も取り出している事だろう。

 


「お”姉__ち”ゃ……ん、痛t……よ………」

 


「大丈夫だよ、ママ」

 


当たり前だ。

 

お気に入りなんて、何処の馬の骨にも渡したくはなかったから。

 


不本意ではあるもののお金は貯まる勢いを殺せず、広い部屋と地下室に並べられた母器達も嬉しそうだ。

 

いっそのこと、このまま月にでも別荘を建ててしまおうかなんて。

 


「馬鹿らしい……」

 


そんな思考を浮かべた私自身が、どことなく哀れに見えた。

 


 


偶然目に止まった期をトリガーに、つい出来心と私をほくそ笑む。

 


「こんなもん、かな?」

 


“Onion”と呼ばれるこの検索エンジンは、普段日の道では見かけないような情報と商品がゴタ煮で入り乱れ。

 

多くの人々に、陰ったネット歓楽街として親しまれている。

 


画面に向かい、麗行の一辺と子宮への情熱をひとつまみ。

 

少々下品に思われるだろうが、私は同士というものを探ってみたくなった。

 


「……」

 


しかし、意外にも同じ思想や麗行に勤しむ者は多かったようで。

 

僅か数日という短スパンで、数万単位の人間が募る。

 

最初こそチャットルームにて互いの母や摘出過程等、情報交換にも似た少し堅苦しいやり取りが続いたのだが。

 


「えっと、宜しくお願いします」ペコリ

 


ある時誰かの提案により、私達はお互いに集う事となった。

 

皆選りすぐりの幼宮を持ち、大多数の有志者達が会するも、会場は尚も広い。

 


「これ、ワタシのソフィアちゃん♪」

 


初めこそ、性行為目的の爛れたオフ会のようで、身構えた。

 

が、蓋を開けてみればそんな空気は微塵もなく。

 

全身を黒い布で覆ったモヤが、淡々と母の美麗を語っている。

 


「アナタのそれも、チョーイケてるじゃん☆」

 


「あ、ありがとうございます」

 


千差万別ながら、驚いたのは集まった人間のほとんどが女性であったこと。

 

幼児の臓器、主に子宮と言うのは男性の性処理具となるケースが多いと聞いていたからだ。

 

しかしそれよりも衝撃を受けたのは、愛母器にリボンを付ける等のおめかしをしている者の存在。

 

正直、目から鱗だった。

 


「母との出会いは__」

 


当然ながら、この集いで顔や肌を晒す者は誰1人として居ない。

 

当たり前だ。

 

これは子宮という神物、並びに馴れ初めや思考を母器と共に浸る場なのだから。

 


「これは、私の……初めてのママ//」

 


私が過去を語ると、皆涙を流す。

 

なんて、ステキな再会だと。

 

ほんの少し、嬉しかった。

 


「わたしは子宮を売る仕事をしていまして、ですが愛は変わりませんよ」

 


とある黒いモヤがそう告白するも、誰が反対の声を上げるでもなく。

 

ただ、頷く。

 

この世の中は誰かの幸福と潔白の為に、誰かが手を汚さなければいけない。

 

それが神物に帰る子であるとしても。

 

それを皆が理解しているからこそ、拍手だけが弾けるのだ。

 


「あの、私もKOGANEという場所で__」

 


彼女の姿勢は堂々たる意思であり、感慨された私も静かに空気を震わせた。

 

必然、誰も咎めず。

 


「も、もしかして……あの?」


「ワタシ、アナタの子宮摘出技術大好きなの!」

 


知りもしなかった、他人の幸福を。

 

子宮の神秘を知るきっかけが自分だと言われ、とても温かかった。

 

もう少しだけこの仕事を、続けてみるのも良いかも知れない。

 

そう思ってしまう私は、第三者的目線で見た時、なんと安い人間かと疑われるのだろう。

 


 


私の母は、とても綺麗で童顔。

 

もう40過ぎだと言うのに、未だ世間から私の妹かと見間違えられる。

 

大人は御世辞が好きだなと、思っていたのも刹那に等しい。

 


「__ッ///」

 


「___ッ!!」

 


母が様々な人間と愛まみえている現場を、数回目撃してしまった。

 

どうやら本当に、この半世紀間近は人を魅了出来る容姿らしい。

 


「ねぇお母さん、最近色々な人に無理矢理させられてるけど……大丈夫?」

 


「!」

 


とうとう心配が水嵩に耐えられず、切り出した話題に一瞬驚いた表情の母。

 

しかしそれも直ぐ笑顔に変わる。

 


「お母さんのアレはね、貴女が子宮へ向けるそれと同じなのよ♪」

 


「それって……」

 


今度は私が驚愕を示す番のようだ。

 

つまり母は、”させられていた”のではない。

 

“させていた”ということ。

 


彼女は母神としてその器を晒し、帰る子の安静地を創っていたに過ぎない。

 


「なんだ、良かった」


「というよりも、知ってたんだね」

 


「親子だもの」

 


「ッ」

 


灯台もと暗し。

 

自分の愚かで窮屈な視野は、優しく笑いかける母で罪を見付ける。

 

今までにない粘度が、私の下着を激熱にビットリと粘つかせていた。

 


 


家は生物の帰る場所。

 

誰も居なければ、それはただの空間に相違なし。

 

だからこそ子は親の器へと感謝に浸濡れ、血染めに溺れるのだろう。

 


「ア__はぁ……ぁ、さぁt」

 


床へ仰向けになる母、縦にパクり開いた腹部は止めどなくルビーを溢す。

 


「ただいま、お母さん」

 


手を広げ迎え入れるソレもどうでもよくて、私は母待つ奥の扉を開く。

 

まるで小学生の如くコンパクトで、卵管から卵管采に描けての曲線は美しく、生選別を担う天使と思わず見間違う。

 

ガッチリと卵管采に捕まれる卵巣は、タポタポと弱々しい脈動を唸らせ、麗行への労りと生への候補に熱望していた。

 


「嗚呼、お母さん……///」

 


「ア”ッウ……んっ//」

 


対面した母器へ再開を祝す。

 

顔を埋めると鮮血は鈍い酸味と共に、私へ母の喜びを携える。

 

温かくて、柔くて、良い匂い。

 

その時感じた母の幸福は、それまで体験してきたどんな子宮よりも艶やかで。

 


「オ”ッ……お母t__sン”ッ//」

 


母宮へ還った私は、ただひたすらに絶頂を繰り返していた。

 

安堵と幸福と快楽が脳奥で唸る海馬もろともデロデロに溶かしきり、それまでの人生などアスファルトに雪解け。

 

沸々と液化した脳がコピー機のように、今をコンマ刻みで激写しては、比例的に体外へ粘液が吹き出し続ける。

 


「綺麗だ__ッ……お母さん///」

 


卵巣に蠢く。

 

初めはこんなにも小さく醜い存在が、やがて奇怪な形へぐねり。

 

少しずつ人間という面影を感じられる姿へと変わっていく。

 

こんな狭隘な肉家から始まり、最後には1mをも越える存在を生成する。

 

改めて、子宮の神秘なる秀麗さに、幼心が焦げ付き歓喜した。

 


「ッん……ァ///」

 


「お母さん、愛してる」

 


同じような言葉だけを繰り返す。

 

母乳を貪り生へしがみつく愚者の如く子宮体を舌先で愛撫し、時にチュプチュプと吸い付く。

 

私は子供、幼児ならば語彙力も理解力も破壊的に無垢で足らない少脳でなければならない。

 


「んっ__嗚呼、おかt……さん///」

 


「ッ//」

 


フニフニと子宮内腔へ挨拶を交わす感触。

 

卵管と卵巣が織り成す秩序の輪っか。

 

そこに舌を絡ませイジイジとあやとりでメビウスを描く度、母が神器ごと淫楽で痙攣する。

 

チラリ目をやれば、恍惚に耽っている母者人。

 


「ぁ__わたしも……愛しテ」

 


もう一差しの光もない眼で、ソレが何か言っている。

 

吐血と唾液、涙で扇情的に転がる表情。

 

床は私の愛泥、朱液で混じりあい、蜘蛛が一匹溺死していた。

 


「……お母さん?」

 


「___」

 


「お母さん、産まれてくれて……ありがとう///」

 


私はそっと、置き捨てられた肉塊にキスをした。

 


 


その後、私は自身の子宮を摘出し母と綺麗に縫い合わせ。

 

淡く光るホルマリン液の中、互いの境目を消すように抱きしめあう。

 

どうやら母はあの時から既に命の可能性を宿していたらしく、今も私達の内膜でスヤスヤと寝息を立てていた。

 


大きくなったのなら、その内に居るママにどうか会わせてね。

 


 


肉親の抱擁に焼かれた感覚は忘れられず。

 

あの胎内回帰以降、私に大きな変化が見られた。

 


「ねぇ、ママ?」

 


女児ではなく、他妻へ麗行を行う機会が大幅に増えたのだ。

 

確かに他者では所詮紛い物かもしれない。

 

私が清小児の子宮を求めたのは、きっと母の容姿に近かったから。

 

気付かぬうちに母親の愛と温もりを欲していたのかもしれない。

 

だが。

 

容姿は重ならずとも、そこには一子を宿した子宮の悲鳴と火照る肉壁が確かに存在している。

 


「ァ___あァ……」

 


「やっぱり一人創造した後の子宮はより柔っこくて、高保護力感じちゃうなぁ♪」

 


プリプリでキューティクルな小ぶりの母も、もちろん愛おしくて大好きだが。

 

一回り大きな母はテロテロと艶かしく、これからの期待ではなく欲の壺。

 

赤桃色の肉壁が僅か0.01台となり、内の胎児が透けて見える程に張り詰めた後のソレはより手触り優しくたおやかだ。

 


「はぁ、お母さん……愛してるよ」

 

 

 


 

軽い自己紹介だったつもりなのに、つい熱く単調な語りをしてしまった。

 

古くより伝わるサキュバスという存在は、きっと子宮そのものを表しているのかもしれない。

 

これだけ逃れぬことが出来ない魅力の抱擁は、生命という答え。

 

 

 

明日は娘が帰ってくる時間と合わせて母に甘えてみようかなと、思考している。

 

帰宅し僅か1フレーム目に、知らない人間が自らの母の胎内に帰省する光景を純心無垢な水晶体に激写。

 

何を思い、どんな心境の淵から転落するのか。

 

想像しただけで。

 

折角拭いた床が、また艶々と濡れてしまった。

追加戦士予想絵「ブンバイオレット」【爆上戦隊ブンブンジャー】

今回は爆上戦隊ブンブンジャーの追加戦士を、噂をもとに描いたので投稿します。

 

【ブンバイオレット】


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モチーフは「レーサー」「ラジコン」です。

(※適当)

 

【ビュンビュンコントローラー】


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ブンバイオレットの変身アイテム、というか武器?

 

アクセルペダルに加えブレーキペダルが追加。

(※マッハビークルは適当な演出)

 

 

【変身方法(2モード)】


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シンギアって何という感じだと思いますが、単純に「シン(擬音)としたギア」でシンギアです。

 

 

【モード変形&必殺技方法】


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特に言う事は無し。

 

 

【ビュンビュンチャンプロード召喚&変形】


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チャンプ=チャンピオン(の略称)

なんかそれっぽい名前を付けました。

 

 

【オマケ】


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なんかそれっぽいかなってやつ。

 

 

という事で以上。

 

ブンブンジャー、久しぶりのTHEスーパー戦隊で第1話からワクワクが泊まり込みませんでしたよ、はい。

 

これからの展開がマジに楽しみゼンカイ。

 

ではまた。

【小説】Love Lost #11

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『ロヴェ、見てくださいアレ!』

 


「……フッ」

 


首輪を物ともせず飼い主を引きずる犬のように、強く握られた手が私をリードする。

 


『色々な人が居ますよ、ほら!』ワァ

 


「あぁ、そうだね」

 


『あの人とっても首が長いです!』


『あっ、あの人はとても綺麗な青い肌をしていますよ!』

 


目新しい物全てを、肉親と共に知りたい子供。

 

キラキラとした目で初めての物を指さす彼女は、紛れもなくそう見える。

 


『わぁ、ロボットもいっぱい居ます!』

 


「流石に、今日はいつも異常に様々な人や物が行き交っているね」フム

 


数千と歩き話す万物達は、正に十人十色と呼ぶに相応しく。

 

まるで一人一人が違う種族かのように、異質な生態は飽きさせない。

 

 

 


科学の産物。

 

私が生まれる前より発展しだした世界だったが、あまりに肝心な事を見逃していた。

 

急速に進化する技術に後処理が追い付かず、高濃度の有害物資を人間は浴びることとなる。

 

直接浴びた者のみならず子々孫々にまで、汚染による様々な影響は及ぼされた。

 

ある者は異様に体の部位が長くなり、ある者は人智を越えた身体能力を手に入れ、またある者は歳をとっても容姿が変化しないままに。

 


或いは。

 


『全身真っ黒な鎧に身を包んでいる方も居ますよ、凄いです……!』ニコリ

 


こういう、変人を生み出したりもする。

 


「エネルギーラインか……緑の発光が、中々に美しい」

 


『はい、とても綺麗です!』

 


「ククッ……随分楽しそうだねぇ」ニタ

 


しかし、あろうことか王はそれを

「科学が大きく進歩した証」として、肯定的に受け取るよう促したのだ。

 


『あ……えと……//』


『す、すみません……つい///』アセアセ

 


結果的にその誑かしは上手く行き、人々は汚染による突然変異を受け入れてしまう。

 

今や、より独特な奇形であればある程チヤホヤされる等、一種のファッション性も見出されている始末。

 

その為か、差別も殆どない。

 


「いや、構わないよ」スッ

 


『……!//』

 


「それに子供のようにはしゃぐ君も、実に愛らしい」ササヤキ

 


『ろ、ロヴェ……もう///』

 


無論。

 

私がルートとなってからは、有害物資の出ない世界にしたけどね。

 


『ハッロー、みんな~♪!』

 


『ッ!』


『あれは、イザナギ様』

 


触れあう熱を遮る如く。

 

国の中心、巨大粒子モニターに一人の少女が映される。

 


「相変わらず、騒がしいヤツだ」

 


『相変わらず、大人気です♪』

 


脳全体をほぐすような声色と笑顔に、ファン達は歓喜の雄叫びを轟かす。

 


『うんうん、皆と~っても良いお返事だね♪』

 

『SIEVEが始まるまでもう少しあるからね、それまではフェスティバルを思う存分満喫するんだぞっ☆』キラッ

 


地面が揺れる元気な挨拶に世界アイドルは嬉しそうに頬み返すと、またも激震が国を覆い尽くした。

 


「祭は良いが、この怒号にも似た歓声は好きになれないな」

 


『姿形は違えど、しっかり統制がなされている……』


『これが、世界アイドル……』

 


「……」

 


耳をつんざくガヤに少々顔をしかめた私だったが、それとは対照的に。

 

彼女はマゼンタに幾千の色を映し、感動を示していた。

 


「さて……」


「さっきアイツが言ったように、SIEVEまでにはまだ時間がある」

 


皮膚の内から淡く表示される時刻を確認し、隣の少女を見下ろす。

 


「色々、見て回ろうか」

 


『はい、ロヴェ♪』ニカリ

 


期待に目を細めて笑う君。

 

その表情につられ、私もただ静かに微笑んでしまった。

 


 


『当たり前のことではあるのですが、ランの方も多々見られます……』

 


四方に映された世界アイドルのビジュアルモニターと、推しに身を包んだ信者達。

 

人気曲が垂れ流される王国の屋台街を、二人並んで練り歩く。

 

その中には、華やかな同じ衣裳を纏うグループがチラホラ見受けられた。

 


「祭は飽くまで余興……SIEVEこそ本日のメインイベントだからね」ニヤ

 

 

 


夢の舞台、SIEVE。

 

"未来あるアイドル達の選別"を目的として、イザナギ主催のもと行われるイベント。

 

春夏秋冬4回にわたって開催し、最後まで勝ち残った一ユニットのみが"アイドル"と名乗ることを許される。

 


『緊張、するのでしょうか……?』

 


「人生を賭けた大舞台、多少の緊張と不安は付き物さ」

 


未来のアイドルは"ラン"と総称され、存在意義の為がむしゃらに奏で歌った。

 


『今回、一体何名が勝ち抜けるのでしょう……』

 


残酷にも世界魅了者がただ自身の優越を確認するべく開かれていた、独壇場だとも知らずに。

 


『そういえばロヴェ』

 


「ん?」

 


目線を向けると、見上げる瞳。

 

嗚呼、照明の浮かぶその眼球は何故。

 


『先ほど話しかけてきた二人組のランユニットへ、激励を送っていましたね』

 


そんなにも、美しい?

 


「……ああ」


「まぁ、激励と言うには如何せん簡素だったが」

 


危うく言葉を文章として、脳が処理出来なくなってしまう所だったよ。

 


『Dr.デウス直々のエールですよ?』

 

『謙遜なんて、ロヴェには要りません♪』

 


世界を背負う者を周りが支持する声の中、彼女だけは私を推している。

 

当人よりも自慢気な顔は、私の言葉全てを神託だとでも思っているらしい。

 


『それにしても珍しいですね、ロヴェが誰かを応援するなんて……』

 


覗き込むように見つめる目が、イタズラに表情を遊ばせる。

 


「ククッ、中々に酷い言い方だね」ニヤ

 


私達に似た、身長差が目立つ二人。

 

託した言葉はとても簡潔で、


―君達ならきっと、イザナギを越えられる―


たったそれだけだ。

 


イザナギ以外の映らない世界とモニターには、限りなく倦怠を感じている」

 

「だから誰でも良い、イザナギを打つ者が現れたなら多少は面白いかと思ったまでさ」ニタ

 


確かに、一方の少女から感じたものは彼女のそれと類似していたようにも思える。

 

1割の"もしかしたら"は、本当に意味を含んでいたかもしれない。

 

だが、飽くまで不可能を基準として。

 


『利己のため無理だと分かっている事柄に、中身のない後押しをするなんて………』


『フフッ、ロヴェも酷いお人ですね』ホホエミ

 


分かりきっていた理由に、あえて彼女はおどけて見せた。

 


「フン……表情が言動と一致していないようだが?」ニタ

 


私も、あえて引かれた線をなぞる。

 


『……当たり前です』

 

『それも含めて、好きなのです//』

 


「ククッ、知ってるよ」ニヤ

 


『……///』

 


見せつけるようにギザ歯は微笑んで、マゼンタに科学者の嘲謔が映る。

 

君は、何処から何処までの私を愛しているのだろうか。

 


『!』


『ロヴェ、あれは何ですか?』

 


「?」

 


染めた形跡の残る頬。

 

愛しき横顔が差し示す先、空腹を誘う匂いは一店の屋台だった。

 

か細く揺れ人々を誘い込む煙の元、香ばしく焼けた右腕が綺麗にぶら下がる。

 


「ほぉ、シザーミートか」

 


『シザーミート……ですか?』

 


「そう、シザーミート……分かりやすく言えば食用の人肉さ」ナデ

 


小首を傾げ、唇に指を置く小悪魔。

 

自覚のない扇情の煽りを、撫でて緩和させる。

 


『人肉……人間も食べられるのですね』ホゥ

 


「人間も牛や豚なんかと同じ肉塊、焼くか蒸すかすれば喰える」

 


全ての生物は等しく並列。

 

人が人を食べる事に、何の不思議もない。

 


『ロヴェはシザーミートを、食べたことありますか?』

 


「……………1度だけね」

 


※#@%?※@……!

 

?※ロi?%@#zあ………。

 


「……食べてみるかい?」

 


『ッ!』


『はい♪』ワァ

 


人肉が未だに肉製品でトップの人気を誇るのは、同じ味がないからだろう。

 

育て方だけではなく愛の大きさによっても、味は大きく変動する。

 


「あわっ」ドス

 


「おっと」

 


「す、すみません……って」


「ろッ………デウスさん?」

 


「?」

 


「あ……えっと……し、失礼します!」ペコリ

 


そう言うと、突然現れた少女は足早にその場を去った。

 


『何やら驚いた様子でしたが、お知り合いですか?』

 


「あんな特徴的な格好、一度見れば忘れないはずだよ」

 


 


「はい、熱いから気をつけるんだよ」ニコ

 


『ありがとうございます、ロヴェ//』ニパ

 


店主から受け取った右腕の1つを、彼女に手渡す。

 

屋台ということもあり、サイズは食べやすい少女期の肉が使用されている。

 

串代わりにそのまま骨が持ち手となっている為、なんとも原始的な雰囲気だ。

 


『では、いただきます♪』

 


人肉は主に、"食用として育てられた物"と

"食用と知らずに育てられた物"の2種類。

 

前者は「意思」を持たない故に会話ができず、最大の欠点として「反抗」しないので安い。

 

後者は"普通"に育てられたことで、当然意思を持ち会話をする。

 

最大の目玉として反抗し喚く為、とても人気があり高い。

 


『はむっ』

 


貴族クラスになるとその場で調理をし、皆で食すそうだ。

 

その際は、"悲鳴が聞こえなくなるまでお喋りをしない"ことがマナー。

 


「どうかな?」

 


『ん~っ、とても美味しいです!』ホワァ

 


「ククッ、それは良かった」

 


大きく開けた割に小さな一口、腕に付いた歯形が可愛らしい。

 

頬っぺに手を当て目を細める君は、更に愛おしかった。

 


「……」アムッ

 


眼福をスパイスに、私も肉を頬張る。

 

見た目に習い少々豪快な引きちぎりで、口内へと肉片を運ぶ。

 


「………なるほど」

 


『どうですか?』

 


「やはり、特徴的な味だね」

 


質感は硬め。

 

広がる肉汁に混ざった独特の臭みと、後に残る

酸味。

 

最後まで鎮座する皮は、飲み込むタイミングを見つけずらい。

 


「しかし何というか、クセになる感覚だ」

 


『そうですよね!』

 

『思い出した時にふと無性に食べたくなる、そんな魅力があります♪』

 


「ああ」ニヤ

 


満足げなマゼンタをしり目、次に小指を付け根から頂くと。

 

コリコリとした骨にバリバリとした爪がアクセントに足され、より独特に奥行きをもたらす。

 

例えるなら、虫を焼く際に使った枝ごと噛み砕いている感覚。

 


(しかし……よもや、もう一度食べることになるとはな)バリボリ

 

「ン………」

 


口を止めた、鮫の喰い跡が残る四つ指の焼き腕。

 

人は食事に対しても、癖を作るらしい。

 


「…………」

 


『はむっ、あむっ♪』モキュモキュ

 


ふと琥珀を向けた白藤の靡き。

 

実に愛らしく、美味しそうに肉をしたためて行く少女が一人。

 

だがその本能的な啄みとは裏腹。

 

支えとして添えられたパールホワイトの手、口元についた油分を舐めとる妖艶なる細舌。

 

野性的なる美、生物における完成形がそこには存在している。

 


『どうされました、ロt___』

 


そして気付いた時。

 


「……」

 


私は既に、君の唇を塞いでいた。

 


『___ンッ///』

 


「………」

 


程よい苦味と、残る酸味。

 

彼女の肉は柔らかく、温かい。

 


『ア……』

 


自分自身の弱さに呆れながらも、1時間にわたる数秒を静かに離す。

 

間際見せた、物寂しさに惚ける彼女に、胸が品良く高鳴った。

 


「すまない、つい………//」

 


『い、いえ……そんな…………///』

 


久しく、恥ずかしさに顔が熱い。

 


「……ククッ」

 


『……………えへへ///』

 


心から、互いに笑いが出る。

 

嗚呼、なんと幸せなことだろうか。

 

甘い甘い空間、酸味の肉塊も流石にケタケタと苦笑い。

 


「なぁ、ング」

 


『なんですか、ロヴェ?』

 


骨から滴る汁にテカりを発していない方の手を、そっと握る。

 

相変わらず、華奢で美しい。

 


「私は君を、愛している」


―@#イザ%?※愛?:s―

 


ムードで変わる程、この言葉は重くない。

 

擦られて、何枚にも積まれたハートインクのコピー紙。

 

FAXで送った定型文には、同じく定型文が返ってくる。

 


『ワタシも、心より愛しています///』ホホエミ

 


知っているさ、そんなこと。

 

だが聞きたいのだ、その声で。

 

私を愛する人の声で。

 


「……フッ、愚問だったかもね」ニタ

 


『ええ、実に分かりきった事実ですから♪』

 


ガダダガと信者の轟は、もはやただの環境。

 

漂う香りと焼けるリズム、モニターより聞こえる上々声も自然。

 

思い出したように、恥ずかしさを誤魔化すべく、二人で肉を噛る。

 


「おっと、そろそろ始まる時間か」

 


皮膚の表示は予定の時間15分前を示していた。

 


『……行きましょうか、ロヴェ//』

 


手を繋ぎ、歩き出す。

 


「ああ」

 


そう頷き、次の一口を運ぼうとした刹那。

 


____ッ?!!

 


『「!?」』

 


背中から聞こえた、多数の悲鳴と破壊音。

 

比喩ではない。

 

耳をつんざく叫びは、今実際にこの場所で鳴り轟いている。

 

青い影と共に。

 


『あれは……!』

 


「ほぅ、量産型か」

 


20体もの青いパンクファッションの群れ。

 

軽快に飛び回るたび燻し銀の長髪が揺れ、微かに残る赤目の軌跡と共に木屑が散る。

 


『ロヴェ、前方上空から来ますッ!!』

 


「___くッ」

 


暴虐により粉砕された瓦礫が舞い、埃として景色を上書きする中。

 

私が察知し彼女も気付くと同時、防いだ腕に痛みが走る。

 


『大丈夫ですか、ロヴェ……!?』

 


「問題なし」カロッ

 


『そ、それなら良いのです』ホッ

 


褐色の腕を投げ捨て、包みを外した棒付きキャンディをすかさず納刀。

 


(不味い)

 


唾液で溶かされた飴は甘味を流し、あろう事か肉の残味と混合。

 

当然、最悪の味だ。

 


「しかし、驚いたな……」ニタ

 

「お前ら機械に、戦闘システムを組み込んだ覚えはないのだが」ニヤニヤ

 


だが、想定外な事だって起こる。

 


『知らぬのなら、知ればいいだけだ……』

 


『「ッ!」』

 


徐々に色彩を増して行く、砂埃の中揺れるシルエット。

 

ブーツが煉瓦をこずくより他、耳を疑う衝撃が空気振動で伝う。

 


『しゃ、しゃべった……』

 


『機械が喋る事に、この世界はなんら疑問を持たぬはずだが?』ニッ

 


あり得ない。

 

だが、事実。

 

粉塵の霧から現れたソレは、明らかな機械音声で笑って見せる。

 


「へぇ………」ニタ

 


『久しぶりだな』


『Dr.デウス………いや、ロヴェ』

 


酷いノイズ混じり。

 


「ガラクタが、私達に何の用件だい?」

 


隣に立つ白藤の少女が、頬に汗を流している。

 

動揺。

 


『……ガラクタじゃない』

 


「……」

 


『ラヴ』

 


『「?」』

 


まるで勘にでも触れられたように、赤いメインカメラが我々をキツく睨む。

 

握られた拳は音をたて、それを合図に集まる鉄の荒くれども。

 


『ワタシの名は、ラヴ』

 


遠くより、催しを地下へ移動するアナウンスが聞こえる。

 


「………」


『ラブ……?』

 

 

 

『ワタシの用件は、ただ一つだ』

 

 

 

男女が合成されたぎこちない機械声は、ゆっくりと胸へ手を翳す。

 


そして、こう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワタシは、愛が欲しい』

 

EP.11【ラヴ wants it】


【小説】Love Lost #10


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EP.10【共生共死】

 


『#"~』

 


人目も付かぬ、森とは言い難い枯れ木の奥底で。

 

耳をつんざくようなノイズが走る。

 


『……♪"~#"~』

 


エンジンの掛からない電動ノコギリみたく、ゴロゴロと。

 

爪で奏でる黒板の悲鳴みたく、キーキーと。

 

暗闇の中で無音に響く長針のように、カタカタと。

 


『#~"………』

 


4000Hzにまで及ぶ、不快音の真骨頂。

 


『………』

 

『歌、どうやって……奏でればいい?』

 


より一層生気を失くした木々達が、風に揺れてブーイングをワタシに飛ばす。

 

一方、20体程の同じ顔ぶれは耳も目も塞がず。

 

薄汚く靡いたイブシ銀を綺麗に並べ、ただ黙って見ていた。

 


『……もし、ワタシが歌を奏でられたら』

 

『貴女は、誉めてくれるのか?』

 


理由なんて、どれも浅い。

 

暇潰しで人を殺すように、ただその手で触れて欲しいだけ。

 

それだけの事に、いくつも時間を無駄にする。

 


『…………いや、もう止めよう』

 


貴女に??して欲しいなんて。

 

そんなの、ただ虚しい。

 

 

 


『……下らない』

 

絵空事

 


 


『ロヴェ、これは一体何ですか?』ピラッ

 


「ほう、随分と懐かしいね……」

 


背中から耳を撫でる霊妙に誘われて、振り返った瞳に長方形が映り込む。

 

推測するに黒ずみや黄ばみは、床に転がるガラクタからのおこぼれだろう。

 

何十枚かがホチキスで乱雑に止められたソレは、表紙に何の彩りもなく。

 

擦れた黒字で、

【Project:VANILLA】と書かれていた。

 


『プロジェクト……バニラ』

 


「……中、見てごらん」ニヤ

 


『えっ、良いのですか?』

 


あえて皮切りの質問には答えず、彼女自身に答えを読ませる事にした。

 


「ああ、君になら隠す必要もない」ニコ

 


『……//』


『で、では失礼して……』ペラッ

 


私から目を反らし、染まる頬が手持ちの資料で隠される。

 

いつも見せているというのに、人間の本能が醜態を晒さんと隠すのだろうか。

 


『Nano Aid……PLANT……』ペラッ

 


所々虫食いのあるボロ冊子を、優しく次のページへ運ぶ。

 

そよ風が、めくるように。

 


『ッ!』


『不老……不死…………これは』

 


「ククッ」

 


英語を羅列する彼女の手が止まり、ある単語に指をなぞる。

 


「そう」


「それは私とゾウリで企画した、"不老不死"の

研究資料さ」ニタ

 

 

 


―この世界には、ボク達が永久に必要だ―

 


出会って間もない頃、砂塵の癖毛が提示してきた言葉。

 

二神によりようやく安定したとは言え、この地上はあまりに弱い。

 

人々の知識も、我々からすれば赤子同然。

 


「私達を越える者は未来永劫現れない、なら私達がずっと生き続ければ良い」

 

「そうして、この研究が始まった」

 


だれもが神を、永遠のものだと語った。

 

イエス・キリストはその昔、影武者を使って甦りを演出したと言う。

 

人間の勝手な思い込みを利用して。

 


『………あの』

 


「どうしたのかな、ング?」

 


資料を閉じ、計画名を見つめていた瞳だったが。

 

やがてゆっくりと、口が開かれる。

 


『このプロジェクトは、今も健在なのでしょうか?』

 


「………」

 

「いや、凍結しているよ」

 


『…………』

 


結局、研究が行われたのはたった数ヶ月のみ。

 

ふと我に返り、私は研究から手を引く事に。

 

ゾウリは少しだけタメ息混じりだったが、意外にもすんなりと了承した。

 


『……して』

 


「?」

 


永久不滅の研究そのものが永久凍結になってしまうとは、なんたる皮肉だろうか。

 


『どう……して………ですか?』

 


「ング?……」

 


『何故、凍結させてしまったのですか……?』

 


紙束を握る手が、微かに震えている。

 

何処か戸惑っているような、喪失感に駆られているような。

 


「完全な物程醜いものはない、私も人間が辿る死という美に……触れてみたいのさ」ニヤリ

 


『…………』

 


「……それに」

 


そんな憂懼を抱えた表情の意は、次の瞬間呆気なく判明する。

 


『ではいつか、ワタシは独りぼっちになってしまうのですか……?』グスッ

 


「…ッ」

 


顔を上げ、水面に映り込んだ私が、ゆらゆらと波打つ。

 

シーツの上以外で魅せた、彼女の潤んだ瞳。

 

それを見てようやく、今までの気掛かりな感覚に終止符を打った。

 


「ふぅん、なるほどね……」ニタ

 

「ング、おいで」

 


『?』


『は、はい……』

 


我ながら朴念仁だと思いつつ、暗雲立ち込める彼女の名を呼ぶ。

 

拭うことも忘れ、随分と新しいシミを作った冊子を握ったままの少女を。

 


「ククッ」スッ

 


『ッ//?』

 


近付く首に手を回し近付け、マゼンタ海より零れた聖水をそっと掬う。

 

拭った原液は、ほんのり甘い。

 


「んっ」パッ

 


『……?』

 


「……その身体、今は私に委ねろ」

 


両手を広げた長さは、身長とほぼ同じらしい。

 

2m弱に及ぶ城門を開き、君を待つ。

 


『ッ///』


『……ではその、失礼………します///』ストン

 


「……」ナデ

 


『………////』

 


向かい合うように膝に座った彼女を確認し、しっかりと扉を閉めた。

 

胸に埋もれた白藤の髪を、優しく撫でる。

 

すぐ真下にある頭部へ鼻を付けると、その香りに心和む。

 


「さしずめ君は、私と死別する点を恐れているのだろう?」ナデナデ

 


『……………はい』ギュッ

 


この宇宙に存在する、死という唯一絶対なる美。

 

産まれる場所、家庭環境、貧民か大富豪、顔と容姿、性別、声。

 

神が適当にダイスを振って定めた、実に理不尽で不平等なステータス。

 

だが、死だけは特別。

 

"死"のみ、万物に誤りなく平等だ。

 

死は生よりも喜ばしい事象だと、何故皆わからないのだろうか。

 


「……ング」

 

「君の心臓は、どんな音をしている?」

 


『そうですね……』スッ

 


目を閉じ、聞く。

 


『ドキ……ドキ………………カチッ』

 


「なるほど」ニヤ

 


少女の脈動に紛れ、点灯音が一定間隔に暗光を繰り返している。

 

第二の鼓動として。

 


「では、私のは……どうかな?」

 


『えっと…………』

 


片耳を、彼女は胸に埋めた。

 


『…………粘液性を感じるドクドクとした鼓動の合間に、人工的な音が聞こえます』

 

『ドク……ドク………………カチッ』

 


体全体に感じる少女の温もりと感触。

 

互いの脈動と熱で隙間なく密着した私達が、ゆっくり溶けだし混ざり合いそうになる。

 


「これはね、仕掛けの音だよ」

 


『仕掛け、ですか?』

 


「そう」

 


見上げる彼女の胸にそっと手を当て、少しだけ指を這わす。

 


「私と君に埋め込まれたこの装置は、互いの死を感知する」

 

「もし仮に私が死んだ場合、君の装置が作動し君を殺す……」トントン

 


胸骨を鳴らすように人差し指で突つく。

 

肉の内に組まれた骨が、指腹に触覚として伝わる。

 


『ワタシを、殺す……』

 


「無論、逆も然り」


「君が死ねば、私も装置が作動し共に死ぬ」

 


『……ッ』

 


「なぁ、ング」

 


『ロヴェ……ッ?///』

 


彼女の頬を両手で包み、落としだした視線を無理矢理引き上げた。

 

じんわり熱が伝わる赤面は、突発的な出来事に目を丸くする。

 


「分かるかい?」ニタ


「私達に、どちらかは無いのさ」

 


額を接着し、ぶつかる魅惑的なマゼンタと琥珀

 

マゼンタの奥に琥珀が宿り、琥珀の奥にマゼンタが宿って混ざり合う。 

 


「共に生き、共に死ぬ」

 

「何処に居ようと足掻こうと、私達は永久に離れることは出来ない」ニヤ

 


『…………』

 

 


絶対に。

 

 


『うっ……ぁ………あ"ぅ』グスッ

 


「おっと……」

 


一連の会話を聞いた途端、岩が退かされたように流れ始めた濁流。

 

不安で塞き止められていた分、その安堵は止まらない。

 


『……よかぁ"……良かった…………///』

 


「……」ナデナデ

 


いつから抱えていたのか。

 

私が知らぬずっと前から、その不安は彼女に根付いていたのだろう。

 


『ロヴェも、ワタシも……ずっとずっと一緒に居られるのですね……////』

 


「ああ……」ギュッ

 


半ば嗚咽混じりで嬉し泣く少女を抱き締めながら、そんな事を考える。

 


「……」

 


『ロヴェ……///』ギュッ

 


抱き締め返す少女は、私より遥かに小さいのに。

 

私より遥かに力強く、絶対に離れない。

 

 

 


「大丈夫だよ」

 


二人を別つ運命は、もう終わった。

 

傍観者気取りの偽善神が居ない今、全てを定めるのは私自身。

 


「もう、二度と……」

 


ガラスに反射する琥珀と目線が合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「君を、一人にはさせない………」

 


奥に灯る白い幻影に、誓いを告げる。

 


気付けば温かく濡れていた胸元の白藤を、私はそっと撫でた。

 


 


『この数ヶ月、ずっと探し続けたが……』

 


遠く、ふんぞり返った石城をルビーが映す。

 


『結局、愛について完全な理解は出来なかっ

たな……』

 

『………!』

 


石城に背を向けた前方。

 

反物質によるポッドや流れるエネルギーの飾る、異質な国。

 


『フェスティバル……』

 


上空に現れた巨大な粒子モニター、民のみならず流れ者にもよく見える。

 


『丁度良い』ニヤリ

 

『ここが、最後の舞台だ』

 


勢い良く閉じた本は、その風圧で燻し銀を微かに靡かせた。

 

投げ捨てた厚い表紙は、角から落ちた衝撃で容易く折れ曲がる。

 

 

 


『……祭を始めよう』

 

ブルーが特徴的なパンク気味の衣類。

 

揺れる長髪も黒ずんだ紅も、ポツリ言葉で揺らした空気の中に。

 

すっと、消えた。

 


プーカ、プリムが大好きプカ!


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プーカは一度、プリムに捨て割られたプカ。

 

 

役に立たなかったプーカは、逃げたプカ。

 

 

再開した時、その視線が怖くて仕方なかったプカ。

 

 

「何で居るの?」その言葉に感情がボロボロに膨れてしまって、爆発してしまったプカ。

 

 

でも、プリムはプリキュア達と出会い、戦って、自分の欲しい物を手に入れたプカ。

 

 

プーカはプリムの物プカ。

 

 

プリムのスラリと流れるような体に抱きしめられると、とってもスッキリした良い匂いプカ。

 

 

プリムの白い肌は暖かくて柔らかくてキメ細やかで、胸に顔を埋めながら背中に感じる手の感触にどうにかなりそうプカ。

 

 

服をギュッと握って絶対に離さないように力を入れたら、プリムの右手がプーカの頭を撫でてくれたプカ。

 

 

「暖かい」って揺らぎの少ないトーンが耳の鼓膜を撫でて、心地良いプカ。

 

 

顔を上げたら目が合って、赤い瞳に吸い込まれそうになって、凝視出来ないプカ。

 

 

髪はフワフワしててパステルミントにピンクでグラデーションで、ウサ耳と白い揉み上げが可愛いプカ。

 

 

プリムの髪はとってもふんわりしてて、顔を推し当てて嗅ぐと、甘くて嗅いでいるプーカが吸い込まれそうに甘いプカ。

 

 

耳の裏に鼻を押し当て呼吸すると、プリムは少し頬っぺたを赤くして擽ったそうにはにかんでいて、とっても可愛いプカ。

 

 

プリムの口はプルプルで、口内に垣間見える細い舌が唾液に濡れているプカ。

 

 

鎖骨が好きプカ。

 

 

でもプリム、やっぱり少し細いプカ。

 

 

もっといっぱい食べたほうが良いよって、プーカを食べても良いよって、言おうとしたけどプリムは料理出来ないプカ。

 

 

誰かにプーカを解体して貰って、美味しい部位を切り取って、焚き火で少しずつゆっくり火を通してこんがり焼けたいプカ。

 

 

プリムはプーカの事をいつものムム口を小さく開けて、食べるプカ。

 

 

プーカがプリムの栄養になれたなら、プーカ達は一生一緒プカ。

 

 

でもやっぱり寂しくて、プリムのスメルと声と目と感触をもっと欲しい。

 

 

プーカが人間の姿、キュアプーカになってる時キュアシュプリームと交わした言葉と絡まった手の温もりを一時も忘れたことはないプカ。

 

 

プリムはプーカと接している時、少し悲しそうな顔をしているのを知っているプカ。

 

 

プーカはもう気にしていないけど、プーカを突き離したことを、プリムは今でも申し訳ないと思っているプカ。

 

 

小さなプーカに、宇宙で一番強いプリムが悩んでいる顔が、表情が、とっても可愛いのは。

 

 

皆には内緒プカ。

 

 

プリムは、プーカから離れられないプカ。

 

 

プリムは、プーカがプリムにまた見捨てられてしまう事を恐れていると思っているけど。

 

 

本当に怖がっているのはプリムの方プカ。

 

 

プーカが仕返しに裏切るのではと、いつも抱き締める手が小刻みに震えてること、プリムは知っているプカか?

 

 

プリムは、プーカから居なくなれないプカ。

 

 

プーカはプリムを見捨てないプカ。

 

 

だから、プリムが願ってなくても、プーカ達はずっとずっと一緒プカ。

 

 

夜、プリムのパーカーの中に潜って、籠るプリムの匂いと体温と感触がプーカにとって最も幸せな時間プカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プーカ、プリムが大好きプカ!

【小説】Love Lost #9

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EP.9【世界アイドル】

 


「ひゃうッ////」

 


『……!///』パァ

 


シミの付いた熱気の籠る小部屋。

 

いつもの如く、ドロドロに溶け合う愛撫に。

 

今日も、君の下品な絶頂顔を拝む筈だった。

 


「……ング?///」

 


『ロヴェ、何ですか今の声』ニヤ


『顔も、とっても可愛い♪』

 


「……ッ///」

 


最初に出た提案、それは彼女が上に乗るというもの。

 

背伸びしている君も愛らしいかと、了承した事が今を招く。

 


『えいっ』

 


「あッ…んっ////」

 


『……///』ゾクゾク

 


細くか弱い手は、ほんの少しつついただけだ。

 

私の、脇腹を。

 


『ロヴェは、本当に脇腹が弱いのですね//』

 


「……何故、君がこれを知っているんだい?///」

 


『ヌゥン様に教えてもらいました』ニコリ

 


そろそろと指でなぞられ、ピクピクと筋肉が歓喜を上げる。

 

必死に思い出し、行き着いたのはつい先日。

 


(……あの時か)

 


帰り際、少女に微周波で耳打ちする神。

 

対したことではないと、聞こうとしなかった自分を後悔する。

 


『ロヴェ、気持ちいいですか?』


『顔、トロけてますよ?//』

 


「んっ……おっ///」


「ング…………」

 


自身の半分程の背丈、攻略方を知った彼女は。

 

いつもは想像出来ない程に、意地悪で。

 

見下されて。

 


「あぁ、良いよ……ング///」


「もっとだ////」

 


味わったことがない、快感だ。

 


『ふふっ、はい……ロヴェ♪』

 

『本日はワタシが、沢山可愛いがってあげま

すね///』ホホエミ

 


逆転した立場。

 

内臓を引きずり出すように熱い腹部は、第2の神へ手の平を返す。

 


たまには、悪くない。

 

 

 


「……つまんない」

 

様子を観ていた不思議な少女はモニターを消し、何処かへ消えた。

 

 

 


「君、ずっと付けているねソレ」

 


『へ?』


『ああ……はい♪』

 


掃除をしている少女の頬、正方形型の絆創膏を指差して聞くと。

 

彼女は憂いた瞳で、嬉しそうに頬を擦る。

 


「傷ならいくらでも、付けてあげるのに」ニタ

 


『それは、嬉しいのですが……////』

 

『やはり、少しでも貴女への愛を残しておきたいのです』

 


「……」

 


実に健気で、体が疼く。

 

実に愛らしい。

 


「ククッ、そうか」

 

「ただ、あまり長くしていると肌がふやけてしまうから気を付けるんだよ」ナデナデ

 


『ん///』

 

『承知しております、ロヴェ///』

 


白藤の長髪が、喜んでいる。

 

はにかむご尊顔、加虐心を煽るには十二分過ぎる加熱材。

 


「ング……」スッ

 


『ぁッ///』


『……しますか?///』

 


折角だから昨日の仕返しと。

 


「ああ、行こうかンッ__」


「!」

 


私で全身を焼け焦がしてあげようと、立ち上がろうとした時。

 

それは、威圧感。

 


『どうされました、ロヴェ?』

 


「ング、離れろ!!」

 


『ッ!?』

 


来る。

 


「よーーーっ!!」

 


『?!』

 


「………」

 


石城が微かに震え、天井から近付く気配にタメ息が先攻する。

 

これから起こる展開に。

 


「っと!!!!」

 


『__ッ』

 


石が瞬き一つで崩れ落ち、飛来した何かの衝撃波で金属手足が舞う。

 


「あいたた、擦り傷出来ちゃったかも」

 


空気が撫でられる。

 

砂ぼこりの中蠢くシルエット、まさに人間のそれに相違なし。

 


『何者ですか……!』

 


「?」

 


人物が振り返った先には、自身の首元にあてがわれた鈍色の刃。

 

驚く素振りも見せず、マゼンタを何かが嘲笑う。

 


「ング、大丈夫だ」

 


『えっ?』

 


「ソイツは」

 


砂ぼこりが捌け、ライブのように焦らす登場。

 

星その物を魅了し、世界の偶像として大地に降り立つは。

 

"神"と呼ぶに相応しい。

 


「私達と同じ存在だ、名は"Dr.イザナギ"」

 


『イザ……ナギ…………?』

 


「へいハロー!!」

 


『!』ビクッ

 


掲げた両手、美麗な轟音に白衣が靡き。

 

即席のスポットライトが彼女を照らし、天パ気味のミディアムヘアが煌めく。

 


「世界は私の小鳥ちゃん!」

 

「全ての命を魅了して、全ての命を抱き締め

る!」

 


赤ベースに青い毛先のグラデーション。

 

類を見ない髪色の既視感。

 

まるで、激熱の炎だ。

 


「世界アイドル、イザナギ!」


「今日も皆を、受け止めちゃうよ♪」キラリ

 


『……す、凄いです』ホワァ

 


(………)

 


それらしいキメ台詞に、うざったい程オーバーな身振り手振り。

 

銀色の水晶がウィンクして、星が飛ぶ。

 


「やっほ、デウス♪」ニパリ


「調子はどうかなー??」

 


「そうだな、天井に穴が開いていなければ、今頃絶好調だっただろうな」

 


いつの間にか握られていたマイクをコチラに向ける彼女の手を、露骨な厭顔で払う。

 

ハウリング音が石壁に反響し、音叉のように長く金切り鳴いた。

 


「あらら、それは残念♪」

 


『……』

 


「おっ、君がングちゃんだね」

 


『ッ!』

 


白銀の捉えた少女が、驚きに目を見開き慄く。

 

しかしそれも、至極当然だ。

 


「相変わらず、お前はあらゆる物事を知っている」ククッ

 


「どういうこと?」

 


彼女の名は、私が付けた愛称。

 

つまるところ。

 


「それは、お前に教えていない筈だが?」ニタ

 


「アッハハ、そうだっけ?」

 


聞いていれば、声一つ一つに魂が宿っているような美声。

 

いや、もはや声と呼ぶにも烏滸がましい。

 

わざとらしい笑い声にも関わらず、何処か心に染み込んでいく。

 


『……あ、あの』

 


「どうした、ング?」

 


華奢な白手が、小さく挙手する。

 

夢だけはデカい平社員みたく、律儀な君がとても愛おしい。

 


『その……』


『先程イザナギ様が仰っていた、世界アイドルとは、いったい……』

 


「読んで字のごとく、だよ」

 

「こいつのファンは億の人間はおろか、一個の地球そのものだ」

 


それは、誇張でもなんでもない。

 

彼女に魅了されるのは何も人に止まらず、ロボや他生物と。

 

存在する"万物"は、彼女の虜だ。

 


『地球そのもの……ッ』

 


言葉の重みを理解して、少女は固唾を飲む。

 

私達の間に立つ偶像は、それをただ黙って聞いている。

 


『で、ですが』


『同じ存在ということは、イザナギ様もルートの一人なのですよね?』

 


「そうだよ~♪」

 


『では、イザナギ様も科学者なのですか?』

 


シンプルな意図の質問。

 

ルートとは世界の根本たる三神の総称であり、全員が卓越した存在だ。

 


「もっちろん♪!」ビシッ

 

イザナギちゃんは世界アイドルでありながら、超俊豪な科学者でもあるのだー!」

 


(………)

 


『で、ですが…………』

 


しかし疑問が浮かぶ。

 

確かに彼女も、他二人と同じような神と呼ばれるに値する威圧感を持つ。

 

だが科学者とアイドルでは、あまりに関連性を感じない。

 

だからこそ、疑ってしまうのだ。

 


「ククッ、そう……そこなのさ」ニヤ

 


『?』

 


「こいつは自分を科学者と名乗っているが」


「研究内容について、その一切が不明だ」

 


『ッ!』

 


眉を潜め、チラリ眼球が覗く先のシルバーが笑っている。

 


『そ、それはロヴェやヌゥン様も含めて……という意味ですか?』

 


「ああそうさ、住みかさえ知らない」

 


少女は信じられない、というような驚愕を浮かべた。

 

相変わらず、それを見て彼女はニヤニヤと笑う。

 

 

 


「……それで、今日は何の用だ」

 


「用事~?」

 


私の問いに頭一つ程低い神が、アイドルみたく腑抜けた仕草で聞き返す。

 

私の愛人より高い背丈は、第三的視点だと綺麗な階段状に見えるだろう。

 


「ヌゥンも会ったんだから、私だってデウスに会いに来て良いでしょ?」ニコ

 


「……」

 


魅惑の笑みだろうか。

 

愛しき君に比べたら、雑草と変わらないが。

 


「用がないなら……」

 


「ほら、これ」スッ

 


『!』

 


分かりやすく呆れ、この邪魔者を早急に帰そうとしたちょうどピタリ。

 

彼女が被せるように何かを取り出した。

 

陽が当たり、コールタールに光る。

 


『これは、ピリオド……!』

 


「そ♪」


「これ、デウスのでしょ?」

 


パスされた歯車は、どこか弾力を帯びていて、とても軽い。

 


「……いつもながら、お前のトリックは見破れないな」ニヤリ

 


それの正体は、私がよく知っている。

 

だが、着眼するべきはそこではない。

 

今しがた彼女は、開いた握り拳からこの歯車を差し出した。

 

開くワンフレーム前まで、手の内に無かったにも関わらず。

 


「聞いたよ、この子達が騒ぎを起こしてる

って♪」

 


広げた手が、歩き、時に転がっているガラクタを指す。

 


「……まるで"他者から聞いた"ような言い方だな」ニタ

 


『おっと』ストッ

 


項を描いたドーナツ金属が、白い器にふわりと落ちる。

 

悪戯っぽく歯を見せる琥珀に、彼女がムッとして答えた。

 


「もう、もしかして疑ってる?」プンスコ

 


「ククッ、いや全く」

 

「お前がするはずない事くらい、私に分からないと思うのか?」

 


「ッ!//」

 


程よく世間に馴染む肌色に、ほんの少し紅葉を感じとれた。

 

理由は分からない。

 


「ま、まぁ……それなら良いけど」フイッ


「それより、この部屋モニターないの~?」

 


誤魔化すように踵を向けた白衣が、辺りを見渡す。

 


『そう言えば、ロヴェはモニターを持っていませ

んね』

 


「必要がないからね」

 


両指でフニフニと歯車を弄る少女に、愛らしさから頭を撫でる。

 

確かに、私の石城内にモニターはない。

 

だが、仮に毎日同じ顔が画面に写っているとして。

 

それを嬉々として観ているなら、既に脳が焼かれて灰となっている。

 


「えー、なんでー?」

 


「どのチャンネルを付けても、君のことしか話題にしていないからだ」カロ

 


取り出したキャンディを、指の代わりに指摘させる。

 


「数ヶ月前、至大な金属城が無人の大陸に突如現れたらしいが」

 

「それが話題として取り上げられたのは、たった2日だけだった」

 


ネタがない世の中、半ばマッチポンプとも取れる報道達。

 

ようやく興味をそそられる事象が起きたと思えば、世間にとってはどうでも良かったらしい。

 

3日目からは何事も無かったように、歌とダンスと歓声が流れていた。

 


『世界アイドル……凄いです』

 


「ふっふーん、まぁそれだけ私に皆メロメロってことだね♪!」ドヤッ

 


「その通りだ、だからモニターはいらない」

 


腰に手を当て、仰け反るしたり顔に鋭い言葉を投げる。

 


「酷いなぁ、ホント ツレない神様」

 


指で言霊を止めると、機嫌が悪そうな態度でまた膨れる。

 

本当に、わざとらしい。

 


「あれ、まだこんなの飾ってるんだ」コンコン

 


「おい、それに触るな」ガシッ

 


『……』

 


「えー、なんでー?」

 


コイツが人に向ける喜怒哀楽等ない。

 

元の機嫌に戻すと、一つのショーケースに駆け出しガラスを鳴らす。

 

世界を魅了した容姿が映る更に奥、人間の骨格が飾られている。

 

可憐で、美しい。

 


「まだこんな悪趣味を保管してるの?」ニヤニヤ

 


「少しばかり、科学者らしくしたいだけだ」

 


反射的に掴んだ手を離し、適当に答える。

 


『あまり見かけない、小さめの骸骨ですね』ホォ

 


「ククッ」スッ

 


『ッ//』

 


骨格にハマり、白玉肌が白骨を見詰める姿は酷く様になり。

 

頬に添えた小麦色も、硝子は映す。

 


「君によく似た、可愛らしい骨だろう?」

 

「私のお気に入りさ」ササヤキ

 


『んっ///』


『はい、とても美しい骨です//』ニコリ

 


勿論、貴女には敵いませんが。

 

そう付け加えた君の微笑を、黒い虚空が見ている気がした。

 

気がした。

 


「……つまんない」

 


きっとそうだ。

 

銀の視線が、そう思えただけだ。

 

 

 


「ねぇ、ングちゃん♪」

 


「なんだ、まだ居たのか」

 


三人の甘い空間に、活発が割って入る。

 

簡単に追い払えないことは承知の上で、早く失せろと暗に突っ放す。

 


「まだ来て30分も経ってないよ☆」キラ

 


「……」

 


『あの、それで……どうされました?』

 


「ああうん、ングちゃんはさ……」

 


馴れ馴れしく私の愛人を呼ぶ声に、少しのイラつきを感じたも刹那。

 

次に出た言葉に、狼狽した。

 


「"歌"が上手いんだよね♪?」

 


「ッ!?」


「おい、ちょっと待て!」バッ

 


「あわっ、何?」

 


情けないな。

 

こんなことで、平常心を失うなんて。

 


「なんで、何故それをお前が知っている?」

 


「えー、さっきは驚かなかった癖に、なんで今のはそんなに動揺するのー?」ニヤニヤ

 


逃げないよう両肩を掴み、揺さぶるが。

 

切羽つまるような様子に、彼女は思惑通りと口角を上げるだけ。

 


「お前は、一体いつからまでの私を知っている?」


「ある程度ならお前の先読みもトリックも流せる、だがそれを知っているのはどう考えてもありえない……!」

 


私とこの偶像モドキが出会ったのは、数年前。

 

だが、今コイツから出た発言は、数十年前に居なければ知りえない事柄。

 

もし仮に、あの頃から私達を観ていたとして。

 

その時の私達に何故、興味を持っていた?

 


「…………何故だ」

 


『あ、あの!』

 


「んー?」

 


普段ほとんど見せない愛人の酷い周章ぶりに、心配と驚きで動けなくなっていた少女。

 

やっとのことで声を出し、私達の興味を一手に受ける。

 

ただならぬ空気感への、仲裁だ。

 


「すまないね、ング」

 


『あ、い…いえ』

 


ありがとう、冷静になれたよ。

 


「それで、なーに?」

 


『あっえっと、上手い………かどうかは分かりませんが』


『歌を奏でることは、好きです』ニコリ

 


白衣の身だしなみを適当に整えながら、少女の言葉を聞く。

 

保育士みたく聞く彼女に、まごまごと答える君が本当に愛らしい。

 


「なるほどねー……じゃあさ!」

 


『!』

 


「……」

 


なんとなく、想像出来てしまう。

 


「ここは一つ、聴かせてくれないかな?☆」

 


『へ?』キョトン

 


目を丸く少女は、提案にストンと声が出る。

 

悪い予感は、的中したと言うわけだ。

 


「ングの歌は、私のものだぞ」

 


『///』

 


「えー、ズルいよー!」

 


「……だいたい、なんで聴きたい?」

 


言うと、待ってましたと理由を述べる。

 


「世界には、色々な声と旋律があるの」

 

「私はその様々なメロディを聴き、より自分の歌を成長させたいのだ♪」

 


句点の代わりに、彼女はウィンクした。

 

それ以上どこに成長する枠があるのかと思ったが、理由としては納得してしまう。

 

それは私だけでなく、彼女も同じらしい。

 


『わ、分かりました……』

 


「アッハ、ありがとう!」ニパリ

 


ただの偏見かもしれないが。

 

明らかに、結果を知っている。

 

いやもしくは、どう動き発言すれば相手は自身の思う通りに動くのかを。

 

熟知しているのか。

 


「……」

 


今のは、どう見ても

"元からやる予定だった笑顔"。

 


『そ、それでは……歌います!』

 


「イェーイ♪」パチパチ

 


舞台上に立つ、本番開始の新人アイドル。

 

たった二人を相手にするにも全力で、眼差しの真面目さに魅力が溢れている。

 

一方の提案者は無駄にクオリティの高い拍手で応援を、しているつもりだろう。

 


『すぅ………』

 


空気も止まる静けさ。

 


『♪~』

 


「…ッ」

 


「……」フッ

 


始まる。

 

即興で紡がれる空気の揺らぎ。

 


『♪~♪~……』

 


摩擦係数は0。

 

石壁が跳ね返す零コンマ一秒前のソプラノが、バックコーラスとして交わる。

 


「………」ウトウト

 


絵の具を付けた筆で描くのではなく。

 

砂漠に落ちた一滴の水。

 

染み込んで、消える。

 

そんな儚さに連なる美しさ。

 

触れる事が決して出来ない、もどかしさ。

 


『~~♪』

 


古典に記された、船人を惑わすマーメイド。

 

もし仮に存在したのなら。

 

それは、間違いなく君だ。

 

 

 


『___ふぅ』

 


フワフワと夢心地。

 

薄れ行くメロディ反響の中、安堵の息一つ。

 


「嗚呼、いつ聞いても美しいねぇ……」パチパチ

 


『え、えへへ////』

 


満更でもない、髪を弄くる姿が本当に無垢なる子供のそれで。

 

嗚呼、可愛いよ。

 


「ふぅーん」

 


『ど、どうでしたか……イザナギ様?』

 


「…………ねぇ、デウス

 


軽い労いもなく、踵を返し私を呼ぶ。

 


「私の方が、ずっと上手いよね?」

 


『……』

 


言葉の意味を考えるまでもなく直球で。

 

少女は数回瞳を泳がせた後、そっと俯いた。

 


「私の方がずっとずっと、デウスを満足させる歌を奏でられるよ!」

 


「………」


「……………ハァ」

 


不思議と怒りは湧かない。

 

愛人を見下された事よりも、目前の訴えが下らな過ぎてタメ息が出る。

 

ひょんな所で、コイツは馬鹿だ。

 


「無理だな」

 


「な、なんで……?」

 


呆れ顔を、シルバーに向ける。

 

ようやく見せた、たじろぐ姿。

 


「確かに、歌唱力に関してはお前の方が圧倒的に上だろうな」

 


しかし。

 

何兆という万物を、たった一人で魅了する世界アイドルと。

 

たった一人に奏で送る、石城の少女。

 

前者に肯定の挙手が集まるのは、どう考えても単純明快だろう。

 


「お前の声や歌詞は、何故か生物全ての心情に深く語りかける」

 

「母なる大地に包まれるような、命という存在の帰る場所」

 


故に、誰もが崇める。

 

神に等しく、いやそれよりも。

 


「じゃ、じゃあなんで……?」

 


「簡単だ」スッ

 


『ロヴェ?』

 


未だに地面のガラクタを映す瞳。

 

落ち込んでしまった彼女に歩み寄り、私はそっと肩に手を回す。

 


「私は、ングを愛している」ダキッ

 


『ッ?!////』

 


「……」

 


 優しく抱き寄せ、言葉を聞いた君が急激に熱くなる。

 

突然発火の赤面が、酷く憂いて高揚する。

 

可愛いよ。

 


「そしてングは、私を愛している」

 


『__///』コクコク

 


「それ、関係ある?」

 


腹部に微か、君の唸る鼓動が伝わる。

 

落ち込んでいた理由だとか、状況だとか、そんなものに回す頭はなく。

 

少女は兎に角、私の問い掛けに素早く頷いた。

 


「……愛する人間の霊妙は、どんなに緻密な旋律より心に響く」ニタ

 


『ロヴェ……///』

 


「……………」

 


小さく唇が震えた"ありがとう"の言葉に、私は微笑み返す。

 


「……ふぅん、そっかー♪」

 


短い沈黙の間、どんな考えに至ったかは分からない彼女が顔を上げた。

 

見せた表情は不気味なくらい明るく、底抜けの笑顔。

 

うざったいオーバーリアクションで、ようやく称えた少女の旋律。

 


「ま、今回はングちゃんの大勝利だね☆」

 


『えっ、あ………はい』


『その、ありがとうございます』ペコリ

 


「いつから勝負ごとになっていたんだ……?」

 


「まぁまぁ、細かい事は気にしな~い♪」

 


両手をヒラヒラさせ、小さな疑問は捨ててしまえと促す偶像。

 

私の見間違いだろうが。

 

横を向くほんの、僅か一瞬だけ。

 


その神から、笑顔が消えていた。

 


 


『あの、イザナギ様』

 


「ん~?」

 


『最後に一つ、質問を宜しいでしょうか?』

 


いつの間にか開始されていた歌唱勝負。

 

そこからも、彼女は私の研究物やら展示物を興味津々に見てまわり。

 

今しがた、ようやく帰ると言い出した。

 


「どしたの、ングちゃん??」ニコニコ

 


『えっと、はい……その』

 


帰宅間際、隣に立つ少女が疑問をあげる。

 


イザナギ様は、どうしてアイドルになろうと思ったのですか?』

 


「……あぁ~、そんなことか♪」ニヤ

 


合金で創られた分厚い扉に向けられた白衣が、少女の言葉にほくそ笑む。

 

恐らくだが、今日の数時間で初めて。

 

彼女と思考が一致する。

 


「理由は簡単」


「"世界の統制"だよ☆」キラリ

 


『…………世界の……と、統制?』

 


「……ククッ」

 


予想通りだ。

 


『えっとそれは、つまりどういった……』

 


「言葉の通りだよ?」

 


新たな真実。

 

自らが計り知れない事柄を提示された時、人間の千差万別な表情は面白い。

 

私の愛人が見せる、見開いた丸い瞳の愛らしさには敵わないが。

 


「生物が争う理由の一つに、"好きの違い"が上げられる」

 

「つまり、一つでも"全生物共通の好き"があれ

ば……」

 


『争いを、減ら……せる?』

 


「ご名答♪」ビシッ

 


やる気のない指腹が、少女を褒める。

 

ついでというには過小過ぎる評価だが、私も頭を撫でてやった。

 


「特に人間は、同じ目線に居る辛酸よりも」


「決して手の届かない光に、お熱しちゃう性質があるの♪」

 


「……」

 


空に向けられた人差し指、まるで生物図鑑のように説明を進める彼女。

 

付け加えるとするならば。

 


「もっと言うと人間は、強者に膝間付いている時に遥かな安堵を感じる生き物だ」

 


人は自身よりも下、弱者を相手にしている際大きな幸福を得る。

 

だが同時に、心の奥底はいつかの下剋上へ不安を募らせる。

 


だが自身よりも上、強者の奴隷でいる場合。

 

これ以上下がる事のない自らの価値、ただ命令通り動くだけの単純さに。

 

深く深く、永い安心感を人は覚える。

 

心の安堵はつまり、幸福だ。

 


「支配されている喜びなら、反旗を示す奴もそう居ないだろう」ニタ

 


「う~ん、120点の解答だね☆」

 


「……そりゃどうも」

 


星飛ぶウィンクと指差しに、あえて嫌そうに雑返事をした。

 


『決して手の届かない光と、強者による支配の永久清福………』ウムム


『ッ!』

 


「ふっふーん、気付いちゃったね~♪」

 


いつもの仕草。

 

柔い魅惑の唇に当てられた指が、繋がる辻褄に離される。

 


「そ♪」


「要するにそれらの条件を満たせるのが、アイドルだったって訳さ♪」ニコ

 


『……』ホェ

 


皆の笑顔の為だとか、歌を奏でる事が好きだからとか。

 

そんなありきたりなテンプレを破壊する、予想だにしなかった規模の返答。

 

隣で言葉を失った愛人に、私の口角が跳ねる。

 


「ククッ、ちなみにだが」

 

「コイツはデビューしてから、約三日で世界アイドルになっている」ニヤ

 


『__えッ!?』

 


天パと癖毛を素早く、マゼンタが一瞥。

 

二人の顔から真実である事を悟るが、それでも半信半疑で開いた口を閉ざせない。

 


「もぅ~、そんな褒めないでよデウス~♪」

 


「……」

 


「ちょ、黙らないでよ?!」

 


難儀だ。

 

褒めていないと言えば嘘になるが、それを口にはしたくない。

 

結果、答えは沈黙。

 


『し、しかし……本当に世界の統制など出来るのでしょうか?』

 


「なんで、そう思ったのかな?♪」

 


『どれだけ生物を魅了しても、小さな悪はしつこく消えません……』

 


神に対する冒涜だと理解していながら、彼女は言葉を綴った。

 

しかしそれは、至極全うな反論。

 

どれだけ潰しても、何処かで産み落とされた卵はやがて、新たな害虫となる。

 


『故に先日も、ワタシとロヴェで悪を……』


『……悪を…………』

 


小さな芽は肉眼で探し摘むのが一番、高効率と言えるだろう。

 


『__ッ』


『悪を、排除している……?』

 


「流石、私のングだ」ニヤリ

 


良く気づいたと、撫でる優秀な愛人に汗が伝っている。

 


「……」ニコニコ

 


『し、しかしロヴェの目的は……!』

 


「無論、目的に偽りはないさ」

 


汚い大人への復讐と、ついで程度の戦利品配布。

 

私が考え行き着いた行動、知る者はこの世に君以外存在しない。

 

経験、そこから生まれる思考、結果導いた行動。

 


「だがそれらも全て、コイツにとって計算の範囲に収まっている」

 

「知らず知らずの内、私達はコイツが目指す統制の手伝いをしていた訳だ」

 


『……す、凄過ぎます』

 


驚きをもはや通り越し、感心に駆られた彼女が視線を向けると。

 

悪戯的に、シルバーが腕を組む。

 


「ふっふん、小さな悪者掃除は君達に任せた

よん♪」

 


別れの駄目押しウィンクに、また星が飛ぶ。

 

早く帰れと、私はタメ息混じりに。

 

藤色靡く少女と、見送った。

 

 

 


 


「全く……」


「相変わらず冷たいなぁ、ロヴェは」

 


石城の上。

 

小部屋に向かって行く二人を見ながら、私は言葉をポツリもらす。

 


「おや……」

 


遠く、砂嵐が遊ぶ中。

 

ほんのり青く、人影一つ。

 


「ああ~……」ニヤリ


「アレが例の機械人形ちゃんか~♪」

 


「でも~、ゴメンね」

 


激しくたなびくいぶし銀の長髪へ、見えてもいないのに謝罪を述べる。

 


「残念だけど、君は救えないな~☆」ニコリ

 


道具は、道具らしくいれば良かったのに。

 

下手に求めるから、自分を殺す。

 

 

 


「っと、いけない いけない!」

 

「次のライブに行かなきゃね♪」

 


立ち上がり、私は荒野に降りた。

 

ぐっと伸びをして、深呼吸。

 

さぁ行こう、偶像を求める万物達へ。

 

 

 


「さぁて、世界アイドル イザナギ!」

 


ふと視線をずらした時。

 

先程まで居た、渇求の少女は。

 

 

 


「今日も世界を包んじゃおっかな☆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


荒れる砂ぼこりと共に、消えていた。