新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【ほのうみss】構成する潮風


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『お誕生日おめでとうございます、穂乃果』

 

時計が0時をさし、日付が8月3日へと変わった時、一本の電話が穂乃果に届きました。

 

「海未ちゃん?」

 

『正解です』

 

電話から聞こえた声は、紛れもなく海未ちゃんでした。

 

「もしかして、わざわざ穂乃果の誕生日の日になるまで待っててくれたの?」

 

『はい、そうですよ』

 

「そ、そうなんだ///」

 

『喜んで頂けましたか?』

 

「も、もちろんだよ!!///」

 

喜ぶ?


そんなものじゃないよ、海未ちゃん。


今の穂乃果の頬は熱くなってるし、さっきから口角が上がるのを抑えられない。


喜ぶなんてものより、もっと上。

 

『ふふっ、それは良かったです』

 

「ありがとう、海未ちゃん」

 

『いえ、貴女の年に一度の誕生日』

『穂乃果を愛する私として、祝わないわけにはいきません』

 

「そっか///」

(あ、愛する?!)

 

さらりとそんな事を言うので、穂乃果の心臓が破裂するかと思ったよ…。

 

『後、ついでに言うとですね』

 

 

『私は今、穂乃果の家の前にいます』

 

 

「えっ?!」ガタッ

 

急いで部屋の窓を開けると、本当に穂乃果の家の前に携帯を耳にあてた海未ちゃんが立っていました。

 

「ちょ、ちょっと待ってて海未ちゃん!」ダッ

 

『急がなくても良いですよ』

 

そんな事を海未ちゃんは言うが、突然の事に急ぐしかない。

 

 

「お邪魔しますね」

『お邪魔しますね』

 

「う、うん」

 

部屋に入ってきた海未ちゃんだったが、何故かまだ通話を切らない。

 

「海未ちゃん、電話切らないの?」

 

「こうやって互いに見える距離にいるのに、電話をするというのは不思議な感覚がしませんか?」

『こうやって互いに見える距離にいるのに、電話をするというのは不思議な感覚がしませんか?』

 

「うん」

「前から海未ちゃんの声が聞こえるのに、耳元からも海未ちゃんの声が聞こえるから少し変な感じだよ」

 

「そうでしょう?」

『そうでしょう?』

 

穂乃果の海未ちゃんは、たまに少し変です。


でも、そんな所も好き。

 

「では、座らせて貰いますね」プツッ

 

「あ、うん」

「どうぞ」

 

通話を切り、制服姿の海未ちゃんは穂乃果の部屋に腰を下ろします。

 

せ、制服…?

 

…制服だ。

 

海未ちゃん。

「海未ちゃん」

 

「なんですか、穂乃果?」

 

「どうして制服なの?」

「も、もしかして学校終わってからずっと家の前で待ってたとか!?」アセアセ

 

「そんな訳ないでしょう」

 

「そうだよね」

 

じゃあ、何故?


何故海未ちゃんは制服姿なの?


そんな心の質問に海未ちゃんが答える。

 

「どうやら穂乃果は、制服姿の私がお好きなようですので」

 

「えっ?!///」

 

回答した海未ちゃんのイタズラな表情は、穂乃果の心拍数を更に上乗せさせます。

 

「えと、その…なんでそれを…」

 

図星をつかれ、海未ちゃんの表情に見惚れ、テンパりが止まらず墓穴を掘る。


もしやそれも計画?

 

「穂乃果のスマホを拝借して見させてもらったところ、フォルダに私の写真が大量にありました」


「いえ、大量…というよりフォルダの写真は全て制服を着た私でした」

 

「…」ボーゼン

 

よりによって、穂乃果の制服海未ちゃんコレクションは、本人に見られる結果となってしまいました。

 

「あ、あれは違うの!」

「いや、違くはないんだけど…その!」

「海未ちゃんの制服姿は穂乃果にとってとても心を燻るというか!」アワアワ

 

「ふふっ、穂乃果は中々に愛が重いのですね」

 

「そ、そんな…キャ!」グイッ

 

「穂乃果自身はこんなに軽いのに」

 

そう言って穂乃果をお姫様抱っこした海未ちゃんの顔がまともに見れない。


バレた事への恥ずかしさと、海未ちゃんのお姫様抱っこのダブルパンチにノックアウト寸前です。

 

(こうなったら…)

 

バッ

 

「穂乃果?」

 

穂乃果は海未ちゃんの制服のポケットからスマホを頂戴した。

 

「海未ちゃんだって、どうせ穂乃果の写真でフォルダ埋めてるはずだもん!」

 

「おやおや」フフッ

 

「むっー」

 

「あ、あれ?」

「ない?」

 

その瞬間、穂乃果は仕返しが出来ない事よりも海未ちゃんのスマホに穂乃果の写真がない事に、強いショックを覚えました。

 

(そ、そんな)ションボリ

 

「安心して下さい穂乃果」

「今、そちらのスマホにはないだけです」

 

「?」

 

「穂乃果の写真は、撮ったその日にパソコンに移しているのですよ」ウィンク

 

「そうなんだ…!」パァ

 

いつ撮っているのか、どんな写真を撮っているのか等は完全に捨て置き、単純に嬉しくなってしまいました。

 

「でも、なんでパソコンに移すの?」

「待ち受けくらいにはしてくれても…」

 

「もし、このスマホを落としてしまったらどうなりますか?」

 

「?」

「えーっと、誰かが拾って届けてくれる?」

 

突然質問に質問返し。


でも、とにかく答えます。

 

「その際、もし中身を見られたら?」


「私は穂乃果、貴女を隅々まで知っています」


「私の撮る写真は私の思う最高の瞬間である貴女の一枚」


「それを誰かに見られるということは、絶対にあってはなりません」

 


「穂乃果、貴女の百面の表情は私にだけあれば良いのです」

 


「…海未ちゃん」

 

///

 

もう、まただ。


穂乃果の体が再び加熱される。

 

 

「話が逸れてしまいましたが、本日は穂乃果にプレゼントを持ってきました」ガサッ

 

「プレゼント?」

 

「えぇ、喜んで貰えると良いのですが…」

 

海未ちゃんからのプレゼントなんて、そんなの喜ばざるおえない。


胸が高鳴る。

 

 

「はい、ピーマンです」スッ

 

「…えっ」

 

「いっぱいありますから、残さず食べて下さいね」

 

「そ、そんなの無理だよ」アオザメ

 

さっきのウキウキ一変。


出された緑の物体に疑問が止まらない。

 

どうしてそんな意地悪を?

 

海未ちゃんはそんな子じゃないよ。

 

「…」

 

「ふふっ」グイッ

 

「!//」

 

「良い表情ですね」

 

「これは勿論冗談ですよ、穂乃果」

 

「そうなの?」

 

「はい」

「穂乃果の誕生日という神聖な日に、穂乃果にそんな酷い事をするはずないでしょう?」

 

酷い事はしない。


でも、確かに今された。

 

「でも、なんで?」

 

「私は穂乃果の全てを愛していますが、それは苦しむ貴女も当然含まれます」


「貴女の、一瞬裏切られたような表情、とても眼福でした」

 

「も、もっー!//」プンプン

 

「すみません」

「本命はこちらです」スッ

 

「これ…」

 

海未ちゃんから渡されたのは、穂乃果達が通っている学校の制服。

 

「それは、私が着ていた物です」

 

「!」

 

忘れかけていたさっきのやり取りが再び掘り返される。

 

「それで、いつでも私を思い出して下さい」

 

ニコリと海未ちゃんは微笑んだ。

 

「で、でも流石に制服を貰うのは…」

 

「おや?」

「お気に召しませんでしたか?」

 

「そ、そういうわけじゃ…」

「海未ちゃん?」

 

海未ちゃんは、ジリリと近づき、手を制服のボタンへとかけます。

 

「それとも…」ヌギッ

 

「?!///」

 

「穂乃果は、今私が着ている制服を堪能したいのですか?」

 

「ほ、ほのっ?!!///」

 

穂乃果の目前にブレザーを脱いだ海未ちゃんが現れた。


夜とはいえ今は夏。


ブレザーなんて着ていれば多少汗ばむのは当たり前であり、ボタンという鍵が外され開かれた扉からは、濃縮された空気が放たれる。

 

(ほの…///)

 

スクールシャツは汗でうっすらと透け、何か別の装甲が見える。

 

「ほら、どうですか?」

 

「ぁ、え…///」

 

駄目。


思考が壊れていく。


目の前の妖艶なる空間が、穂乃果の頭をかき回し、否定なんか出来ない程にぐちゃぐちゃにされる。

 

「どうしますか、穂乃果?」

 

穂乃果は。

 

「海未ちゃんの、堪能したい//」

 

抗えない。

 

「素直な貴女は好きですよ」

「ほら、どうぞ」ズイッ

 

(…///)

 

ポスッ

 

「貴女の思考なんて、脆い物ですよ」

 

聞こえない。

 

スー…ハー。

 

広がる。

 

スー…ハー。

 

穂乃果を壊しちゃう香り。


ただ、海未ちゃんだけで体が満たされるこの感触は。

 


きっとどんな薬物を使っても得られない快感。

 


「ウミチャン、ウミチャン…///」スリスリ

 

「まるで犬ですね、可愛いですよ」ナデナデ

 

「!???////」

 

体内に広がる快感で満たされていた体に、外海からの接触に頭がショート寸前。


心地よい心に心地よい体。


今、高坂穂乃果という存在を構成している物はたった一つ。

 


園田海未

 


うぅ、きっと穂乃果は今、年頃の女の子が絶対にしてはいけないような顔をしている。


でも、そんな事でこの状況を中断する事態にはならないだろう。


だって、穂乃果は誰でもない穂乃果という人間の筈なのに。


それが、たった一人の園田海未という人間に身も心もぐちゃぐちゃにされている。

 

「すーはー…すーはー///」スリスリ

 

それが。

 

「良い表情ですよ、穂乃果」ナデナデ

 

 

タマラナクココチイイ

 

 

「…」ナデナデ

 

「…///」スリスリ

 

「穂乃果」ナデナデ

 

「…?」スリスリ

 

 

貴女にとって、私とは何なのでしょうか。

 

 

微かに聞こえたその言葉に、うずめて動いていた顔が止まる。

 

「ウミチャン?」

 

でも穂乃果はまだ海未ちゃんの中。


音程はバラバラで、上手く声は出せていない。

 

「気になってしまったのです」

 

「私は貴女の誕生日を祝うべく此処に来ました」

 

「貴女を愛しているからです」

 

「ですが、貴女の事を崇拝している訳では勿論ありませんよ」

 

「本当に崇拝に値する人間であれば、このように一人の人間に思考を壊されてはいないでしょうからね」ニコッ

 

「ウミチャ…」

ココチイイ///

 

海未ちゃんは大事な話をしていることを、穂乃果は勿論分かっている。


だから、穂乃果を見下す台詞は止めて。

 

ココチヨクナッチャウヨ

 

「しかし、貴女と接する度に少し思ってしまうのです」

 

「貴女にとって私は何であるのか」

 

「…」

「私の愛は、貴女に届いているのですか?」

 

「ウミチャン」

 

届いてるよ。


ずっと前から。

 

「ウミチャン」ズイッ

 

「…どうしました穂乃果?」

 

薄れる自我の中、なんとか穂乃果はウミチャンと目を合わせる。


暗い部屋に射し込んだ月明かりが、貴女のトパーズ眼に光を反射させる。


穂乃果の濁った瞳とは違うね。

 

「ウミチャン、ほノかもネ」

 

ウミチャン、スキ

 

「…」

 

アイシテル。

いっぱい。

 

「…穂乃果」

 

聞こえたのだろうか。

穂乃果の愛は、貴女に。

 

「…」

「フフッ」

 

「…」

 

「それが、貴女の精一杯の答えですか」

 

「うん」コクッ

 

「」ナデナデ

 

「…///」

 

「ありがとうございます、穂乃果」

 

「!」

 

その時、意識が戻った感覚がした。


だって。


海未ちゃんの表情は。

 

「…綺麗」

 

穂乃果は生まれてから、こんなにも美しいプレゼントを貰った事はない。

 

当然だ。

 

目の前にいる貴女は、穂乃果の全てだから。

 

「海未ちゃん」

「今日はありがとう//」

 

「いえいえ、こちらこそ感謝致します」

 

「海未ちゃん…///」

 

「…」

 

 

ボスッ

 

 


「!」

 

後頭部を掴む手は、再び穂乃果を妖艶な場所に押し戻した。


また、意識が。


かんたんなんだ。

 

ホノカをコワすなンて。

 

 


「今日は貴女の素直な気持ちを聞くことが出来て、とても嬉しかったです」

 

なんて、言ってるのだろう。

聞こえない。

 

「ウミチャン…」

 

「穂乃果、改めて言わせて下さい」

 

 


お誕生日、おめでとうございます。

 

 

 

 

「…これからもせいぜい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私で構成されていて下さいね♪

 

                                            完