新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【ほのうみss】埃祓う両手

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ツンツン

 

「…」

 

「…」ツンツン

 

「…」

 

「…」ツンツン

 

どうやら、またしても始まったようですね。


これが。

 

「…」ツンツン

 

私を突ついている人物の方へクルりと振り返ると、案の定穂乃果がいました。

 

「…」

 

「…//」

 

「…またですか」

 

「…」コクコク

 

いつからか、と聞かれるともう忘れてしまったので答える事が出来ませんが。


穂乃果はある時から私に、今のような行動をとるようになりました。

 

私の腕、もしくは背中をツンツンと突つき、私が用を尋ねると。

 

「…何か用でもあるのですか?」

 

「…」フルフル

 

「…」

 

「///」ニコッ

 

このように、ニコりと笑うだけ。


毎回毎回、この繰り返し。


一応聞いてはみるものの、用件を求められた事など一度もない。


本当に何も意味がないこの動作。

 

「…」

「用がないなら、もう行きますよ」プイッ

 

「…」

 

「…」ションボリ

 

「…」

(穂乃果///)

 

(…可愛い///)

 

しかし、それでも私が怒りを見せないのは至極簡単な事であり。


この笑顔が可愛いからだ。

 

(あぁもう、本当に毎回毎回何なのですか?)


(特に用件もないくせに、子供みたいなちょっかいの出し方をして…)


(用件を聞いたら嬉しそうに笑って…)

 

もう、本当に何なのか。


私にはわからない。

 


(なんなんですか、あの可愛い生き物は?!///)

 


しかし、唯一分かる事は。


私の穂乃果が可愛い過ぎる、という事だけです。

 

(冷たくしたらションボリしましたね)

 

この表情も毎度のこと。


私はあえてこの表情を引き出すような態度をとる。


理由は。

 

(コロコロ表情が変わって、可愛いですね穂乃果は///)

 

可愛いからです。

 

(しかし…)

 

ふといつもの流れが終わった後、思います。

 

(何故いつも突ついてくるのでしょう?)

 

 

「えっ、穂乃果ちゃんが突ついてくる理由?」

 

「はい、そうです」

「ことりなら何か知っているのでは、と思ったので」

 

私は休み時間を利用し、ことりに相談を持ちかけました。


いつも何かしらのアドバイスを与えてくれるので、重宝しています。

 

「うーん…」

 

「何か聞いていたりしませんか?」

 

「ごめんね、ちょっと分からないかな」

 

「そうですか」

 

ことりも時折穂乃果と会話していたことがあったので聞いてみましたが、特に何も情報はないようです。

 

「そもそも、聞くってどうやって?」

 

「…確かに、そうですね」

 

私は、窓外の空を見ました。

 

「…」

 

「でもさ、海未ちゃん」

 

「?」

 

「私、少しだけなら穂乃果ちゃんがあの行動をする理由分かるかも」

 

「!」

「本当ですか!」ズイッ

 

「わわっ、近いよ海未ちゃん」

 

「ハッ…す、すみません」

 

理由を見つけたらしいことりに、ついつい詰め寄り過ぎてしまいました。


私は急いで離れます。

 

「それで、理由とは?」

 

「うん、多分ね」

 

「…」

 


理由なんてないんだと思う。

 


「?」

「どういうことですか」

 

ことりの出した答え、その答えとは呼べない解答に、私は面を食らってしまう。

 

「つまりね、海未ちゃんが考えてる程、きっと穂乃果ちゃんは何も考えてないんだと思うな」

 

「と、言うと?」

 

「穂乃果ちゃんはね、ただ海未ちゃんに構ってもらいたいだけなんじゃないかな?」

 

「!」

 

ことりの出した理由は、何よりも穂乃果らしい回答だった。

 

構ってほしい。

 

それは、盲点だった。

 

「しかし、私は穂乃果とはちゃんとふれ合っている筈なのですが…」

 

「それって、家とか放課後だよね?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「穂乃果ちゃんは、もっと四六時中甘えたいんじゃないかな」ニコリ

 

「…なるほど」

 

確かに。

私は、学校では穂乃果と深くふれ合うことがなかった。


いつも、人目に触れない放課後や私の家。


学校でも、反応は見てあげていたのでそこに気付くことが出来なかった。

 

「ありがとうございます、ことり」

 

「ふふっ、どういたしまして♪」

 

「それでは、早速今日のお昼休みにでも穂乃果を甘やかしましょうかね」

 

「うん、きっと穂乃果ちゃんも喜ぶよ!」

 

ことり、貴女はやはり的確なアドバイスをくれますね。


本当に感謝しています。

 

 

「…」

 

「穂乃果」

 

「!」クルッ

 

穂乃果は、私が声をかけるや直ぐ様振り返ってきました。

 

「今日のお昼、屋上で一緒に食べませんか?」

 

「…//」コクコク

 

(可愛い//)

 

嬉しそうに首を縦に振る穂乃果と、屋上への階段を登って行く。

 

 

「穂乃果、良かったらあーんをしてあげましょうか?」

 

「!///」パァ

 

「フフッ、どうやら聞くまでもないようですね」

 

穂乃果の嬉しさと期待の混ざった笑顔に、私は少し緊張してしまう。


なにせ、人にあーんをするなど初めての事。

 

(上手くやるのです、園田海未!)

(そして2つの意味でうまいと言わせてあげますよ、穂乃果)

 

「…?」

 

「おっと、失礼しました」

 

「ほら、あーん…」

 

「…///」アーン

 

パクりと玉子焼きが口内へと入って行きました。


ついでに私は、穂乃果の口内へと入った箸を手に入れました。

 

【一石二鳥】

主に、一つの行為から二つの利益を得ることです。

 

穂乃果の玉子焼きを頬張る表情と穂乃果の口内に触れた箸の入手。

これは、正に一石二鳥。


そう呼ばざるを得ないでしょう。

 

「ど、どうです?」

 

「…!」

「///」コクコク

 

「良かった、満足頂けたようですね」ニコリ

 

(味は、分かるのでしょうか?)

 

「どうです、今度はこのピーマンなんて如何ですか?」

 

「…!」

「…」オチコミ

 

(いい顔しますね、穂乃果//)

 

無論、穂乃果にピーマンなど食べさせる気はありませんが、一種の様式美です。

 

「冗談ですよ、穂乃果」ナデナデ

 

「…」ムムム

 

「おや、怒っているのですか?」

 

「…」ツーン

 

「ウフフフ///」

 

私は口元に手を当てて笑います。

 

「?」

 

「本当に、穂乃果は可愛らしいですね」ニタ

 

「!////」

 

「良い反応…ですよ、穂乃果」ナデナデ

 

「…//」テレテレ

 

頭を撫でられる穂乃果の顔はいつもの笑顔であり、すっかり機嫌も元どおりと言ったところでしょうか。


柔らかな感覚は、私の撫でる手を中々離してくれません。

 

「…では」

「次はこの白米を食べさせてあげますよ」スッ

 

「!」パァ

 

「はい、あーん」

 

「…」パクッ

 

「美味しいですか?」

 

「///」コクコク

 

「それはそれは、良かったです」

 

上手く炊けていたようですね。


穂乃果はとても満足気で、旨かったようですね。


『上手く』炊けたご飯が『旨かった』ようで、私も嬉しくなってしまいます。

 

「穂乃果」

 

「?」

 

「今のはですね、上手いと旨いをかけt…」

 

「あ、いたいた」

 

「「?」」

 

こんなところに、ことりが。

 

「ことり、どうしたのですか?」

 

「ううん、ちょっと様子が気になっちゃって♪」

 

「フフッ、そうでしたか」

 

「その様子だと、上手くいったみたいだね海未ちゃん」

 

「えぇ、ことりのお陰で」

 

どうやらことりがこの場所へ来た理由は、私と穂乃果を心配してのことらしい。


全く、優しいですね

どこまでも。

 

―――

(今日の海未ちゃん、なんだかいつも以上に優しいなぁ///)

 

(毎日…何年、穂乃果のちょっかいを優しく受け止めてくれて…)

 

(一緒に居てくれて…)

 

(本当に、毎日幸せだよ、穂乃果は///)

 

―――

 

ツンツン

 

「?」

 

「どうしました、穂乃果?」

 

「…」ジッ

 

「?」

 

突然いつものアレに振り向くと、穂乃果が何やら言いたげに私を見つめていました。


真剣な顔も素敵ですね。

 

『海未ちゃん、いつもありがとう////』ニコッ

 

「!」

 

「…」

 

「喜んでもらえて、私も嬉しいですよ穂乃果///」

 

「!」

「///」

 

私を突ついた後にするいつもの笑顔が、今はより美しい。


穂乃果の吐息が、私に感謝を伝えているのが良く分かります。


私は、貴女の問いに答えることが出来ているでしょうか。

 

「ふふーん」

「穂乃果ちゃん良かったね♪」

 

「…」コクコク

 

「それにしても、海未ちゃん」

 

「はい?」

 

「これだけ仲良く出来るんだったら、最初からそうすれば良いのに」

 

「…」

「ははは、お恥ずかしい限りです」

 

ことりの困ったような笑顔に、私は苦笑混じりに返すしかない。


彼女の言うことも、一理あるのですから。

 

ですが。

「ですが」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女の声は、私にとって邪魔でしたから」

 

 

そうだ。

 

彼女の容姿、仕草、表情は、どれをとっても素晴らしい。

 

ただ一つ、私は声を快く思わなかった。

 

完璧である彼女にあった、確かな欠点。

 

私にとっての宝石に、ホコリがつくことは断じて許す訳にはいかない。

 

私は、そんなホコリを祓ったまでだ。

 

 

「えへへ、海未ちゃんらしいね」

 

「素直な感想です」

 

「それより、私達の空間に長く居座るとは…」

「いけない子ですね、ことり」

 

「ふふっ、ごめんね」ニコッ

 

「じゃあ、また後でね海未ちゃん、穂乃果ちゃん」

 

「えぇ、また後で」

 

そう言うと、踵を返してことりは行ってしまいました。


心地よい風が吹いて、思わず笑みがもれてしまいます。

 

「…?」ツンツン

 

「あぁ、穂乃果」

 

もう、本当に可愛いらしいですね。

 

「別に、気にしなくて良いのですよ」ニコリ

 

「…」

 

「…」スッ

 

「!」

 

私は彼女に手を伸ばし、耳元に口を近付けます。


広い屋上で吹く風と生活音に無駄に漏れる情報などないですが。

 

「穂乃果」ササヤキ

 

 


「これからも私に…」

「その愛らしい、姿を、見せ続けて下さいね///」

 

 


「!」

「…////」

 

 


私が言うと彼女は頬を赤くしながら、ゆっくりと頷くのでした。

 

                                              完