新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【小説】Love Lost #1


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【EP1 再会】

 


枯れ果てた木々からは、一枚の葉っぱも残っていない。

 


吹く風が砂ぼこりと、少しの金属切れを宛無く運ぶ荒野。

 


その中心、まるでふんぞり反るように佇むそれは。

 


突如現れた、絶壁。

 


それを城と言うにはあまりにも、品性に欠けていた。

 


 


薄暗い石壁の中、辛うじて認識出来る程に人の姿が動く。

 


高さにして約2m、その巨体とは裏腹にメリハリのあるボディ。

 


キーボードの入力音が石壁に反射する度、良く 響く。

 


四方に設けられたモニターを、結ばれた癖毛のナイトブルーは等しく揺れる。

 


「…………そろそろか」

 


ノイズのない低音ボイス、ニヤリ笑う彼女から鋭利なギザ歯が顔を出す。

 


Dr.デウス

 


それは、彼女が付けた自身の勲章。

 


本当の名は。

 

 

 


「さぁ、お目覚めの時間だよ」

 

「愛しき人よ」

 


押されたエンターキー、そこから発生したように配線は淡く光りだす。

 

やがて1つの少女に終着した光が、命と変わる。

 


『………』

 


『……………』ジジッ

 


仰々しい起動音と共に、ゆっくりと瞼が開かれた。

 

ツタの這う石城からは浮きすぎた、パンクな赤い衣装。

 

その瞳は衣装よりも目を引く、射ぬくようなマゼンタカラーだ。

 


『………ここは?』

 


「………」


「……………おはよう」

 


『……?』

 


薄暗い黒を透かしてしまいそうな程に、透き通った白い肌。

 

薄い桃色の唇から放たれた声は、濁りのない直線的なトーン。

 


「さて、まずは……君の自己紹介をお願いしてもいいかな?」

 


『了解しました』

 


『No.00』

『ワタシは、シングロイザーと申します』

 

『以後お見知りおきを、Dr.デウス様……』

 


そう、たったそれだけ。

 

彼女が知る自分自身が、その淡白な一言に全て詰まっていた。

 


「上出来だ、ありがとう」

 

「では、今度は私の番だね」スクッ

 


倍近い背丈に、少女が顔を上げる。

 

わざとらしく咳こみ、わざとらしく靡かせる赤みがかった白衣から埃が舞う。

 


「私の名は"ロヴェ・ロスト"!」

 


琥珀色の瞳が、イタズラっぽく表情を作る。

 


「又の名を、Dr.デウスだ!」

 


天才科学者、それは神にも等しい偉業を成し遂げたことだろう。

 

そんな神の名を、一体誰が知ると言うのか。

 


『…………ロヴェ……ロスト……様』

 


「……あぁ」

 


胸の前で手を組み神を見上げる様は、とても機械仕掛けとは思うまい。

 

明らかにそれは、人の顔。

 

悲しさ、嬉しさ、愛。

 

人間だけが許された、感情のごった煮だ。

 


「……」ギュッ

 


『ッ!』

 


目線を合わせ、少女を優しく抱き締める。

 

その姿は、神とは程遠い。

 

嬉しさ、愛、悲しさ。

 

人間の持つ、下らない感情だ。

 


「……やっと、会えたね」

 


『…………はい』ギュッ

 


答えるように少女は腕を背中へと回し、そっと擦った。

 

泣いていた彼女を、慰めたかったから。

 

大きな体に子供のような頼りない背中を、安心させてあげたかったから。

 


「会いたかった、ずっと」

 


『私もだよ……ロヴェ』

 


「あぁ、その声……聞きたかった」

 

「もう、絶対に君を手放さないと誓うよ」

 


サラリとした皮膚から伝わる温かさ、これはただの機械熱だろうか。

 

絶え間なく廻るモーターが持った、苦しさの熱量だろうか。

 

否。

 

 

 


「私の、愛人よ……」

 

 

 


『……ワタシは、貴女の愛人』

 

 

 


流れる赤黒い液体はなんだ。

 


散らばる臓器は?

 


感じる、キスの味に酔いしれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火が灯る。

 

                                               続