新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【RWBY 氷雪帝国ss】Whiterose

f:id:Sinzaki-Maskof:20230624210804j:image

 

 

 

 

「あわっ」トス

 


レンガに鳴る靴音二つ。

 

突然腕を引かれ、私は潮風と共に氷河を感じた。

 


「危ないですわよ、ルビー」

 

「前を見て歩きなさいと、さっき言ったばかりでしょう?」

 


「あ……えへへ、ごめんワイス」

 

「つい、よそ見しちゃってて…」

 


頬をポリポリ、誤魔化して見せる。

 


「今ここには、そんな目移りするような物はございませんわよ」

 


青黒いサングラスの向こう側。

 

チラリと瞳が私を見て、呆れたようにまた前を向く。

 


「……いるよ、目の前に//」

 


「今、何か仰りまして?」

 


「う、ううん!」

「何でもない//」ブンブン

 


「………そう」

 


その言葉に、興味はない。

 

聞こえてたクセに。

 


「それより」

 


「?」

 


「暑苦しいですわ」ギロリ

 


柱にぶつかりそうになった私を、とっさに自分の方へ引き寄せたワイス。

 

気付けば私は、ずっとそのまま。

 

ワイスにくっついたまま、歩いていた。

 


「え~、そんなこと言わずにさぁ…」

 

「もっとこうしていようよ~」スリスリ

 


「……」

 


「ワイス、大好き~」スリスリ

 


パシッ

 


「あっ……」

 


腕に添えていた手は、まるで虫でも追い払うように叩かれる。

 

痛くはないけど、反射的に叩かれた手をもう片方の手で覆ってしまう。

 


「暑苦しいと言ったはずです」


「さっさと離れなさい」

 


「……ご、ごめんワイス」

 


「それに、公共の場ではそのような発言は控えなさいと言いましたわよね?」

 


「……うん」

 


「おバカな行動・言動、腹立たしいですわよ」

 


「……ッ」

 


冷たい。

 

いや、もっと上。

 

絶対零度の視線。

 

氷柱が突き刺さったように、私の心臓が冷たくズキズキと悲鳴をあげる。

 


「……ご、ごめんなさい」


「……ワイス」シュン

 


「全く…」カツカツ

 


氷点下が背を向けて、歩きだす。

 

また、やっちゃった。

 

もう何度目?

 

覚えてない。

 


「……」シュン

 


「………」ピタリ

 


「愛情表現は」


「二人だけの時になさい」

 


「!」


「……」パァッ

 


振り向いた瞳が、氷柱をも溶かす。

 

もう、何度目かな。

 


「うん!」

 


「ほら、さっさと行きますわよ」

 


離れていく、軍服の白。

 

靡く白。

 


(……)


(……………////)

 


絶対零度も、春の兆しも。

 

私にとって、全てが心地良い。

 

私だけに刺す、あの眼差し。

 

何度も何度も、見たくなる。

 


「……ワイス///」

 


幸せ。

 


 


「よっ、お二人さん」

 


「今日は二人でお買い物かしら?」

 


「あっ、お姉ちゃん、ブレイク!」

 


ブンブンブン、蜂が飛ぶ。

 

バンブルビーの名コンビ。

 

偶然出会った二人は、同じチームのブレイクとヤンお姉ちゃんだ。

 


「お二人こそ、何をしていらしたの?」

 


少し遅れて私の背後から現れたワイスが、二人に尋ねる。

 


「新しい本を買いに行っていたのよ」スッ

 


「んで、私はその付き添い」トン

 


分厚い童話を嬉しそうに見せるブレイク、そしてお姉ちゃんはその肩に手を置いてニカリ笑う。

 

この二人は、相も変わらず仲が良い。

 

外見的にもイケてる二人は、戦いでも圧倒的なコンビネーションを見せつける。

 

勿論、私とワイスの方がスゴいけど。

 


「そうですの」

 


「聞いてきた割に、興味なさそうだね」

 


「ま、実際そうですし」

 


「あんたねぇ…」ヤレヤレ

 


これも、いつもの会話。

 

だから、安心する。

 

ワイスはね、他に興味なんてないんだよ。

 


「それより、二人は何してたの?」

 


「少し用事がありましたの、今はその帰りですわ」

 


「それで、私の可愛い可愛い妹が使いっぱしりになってたわけ?」

 


「人聞きの悪い」

 

「ただ単純に、二人で買い物していただけですわ」スン

 


「ホントかなぁ?」ジト

 


見て分かる程にわざとらしく、お姉ちゃんは腕を組んで疑いの目を向けた。

 

ブレイクは、そんなお姉ちゃんを見てる。

 

ワイスのこと、もっと信用して欲しいな。

 


「なーんか最近さぁ…」


「ワイスと居るルビーが、前にも増して大人しいって言うかー」

 


「…何が言いたいんですの?」

 


「あんた、私達が見てない所でルビーにめちゃくちゃ厳しくしてんじゃないの?」

 


「………」

 


「流石に、それはないと思うけど」

 


苦笑いをしながら、ブレイクが少し割り込む。

 

流れからして、誰もがこの後の展開を予想出来るが故にだ。

 


「そんな事、1ミリ足りともありませんわ」

 


「ふーん」

 


「というよりも、ルビーの事を思うなら多少厳しい方が宜しいのではなくて?」ニヤリ

 


「どういう意味?」ジトー

 


「貴女達二人は、ルビーに甘過ぎます」

 


(……///)

 


私の名前。

 

氷河に刻まれている、その言葉。

 

それが読まれる度、私は熱くなりだした頬を靡く軍服に隠す。

 


「特にブレイク」

 


「えっ、わたし?」

 


「貴女"前にも増して"、ルビーに甘くなりましたわよね」

 


「そうかな…?」

 


「えぇ、最初はそこの"お姉様"だけがルビーを溺愛しているようでしたが……」

 

「最近は貴女も、ルビーの行動・言動に甘々デレデレ……」

 

「この間も、課題を写させてあげたようですわね」

 


私の心臓が、ドキリと一回。

 

腰に手を当て、高いはずの身長すら無視しワイスは見下す。

 


「そ、それは……」

 


(…ていうかお姉様って私のこと?)ジト

 


「そんなだからルビーはいつまで経ってもチームリーダーとは思えないようなどこまでも軽率で無鉄砲でお子ちゃまな、おバカさんなのですわよ」

 


「ちょっと、そんな言い方はないんじゃない?」

 


「あら、事実じゃございませんこと?」

 

「本来であれば皆を引っ張るリーダーが、チームメンバーに甘やかされている元気だけが取り柄のダメリーダーなんて聞いたことないですわ」ニヤ

 


「それ以上言うと、本気で殴るよ……」

 


「やってみなさい」

 


「ちょ、ちょっとヤン……」

 


(………)

 


ワイスの言葉に、お姉ちゃんの瞳が一瞬だけ赤くなる。

 

文字通りヒートアップする会話に、牽制を試みるブレイクは皮肉にもレフェリーにしかなっていない。

 

そして当の私は。

 


(……ワイスが私の話題に燃え始めた)


(………そろそろ、かな)

 


「わーん、ブレイク~」ダキッ

 


「「?!」」

 

「………」

 


同じ黒髪。

 

リボンが驚きでビクリと跳ねる。

 


「る、ルビー…?」

 


「そうなの、ワイスったら……最近私にすっごく厳しいんだよ!!」

 


「…………」

 


ヤンお姉ちゃんも、突然の事に言い合いが中止され私を見る。

 

だが、終始。

 

突発的な行動にも、驚くことなく。

 

いやむしろ、呆れたように。

 

ワイスだけが私の行動に、眉をゆっくりと潜めはじめていた。

 


「ほら、やっぱりルビーのことイジメてたんじゃん!」キッ

 


「………」


「………」バッ

 


「きゃ…!」

 


目の前から消えたみたく、二人に目も暮れず歩きだす。

 

私の赤い頭巾をがっしり掴んで。

 


「あ、ちょっと!」

 

「ワイス、逃げるき?!!」

 


「愚痴も拳も、後でたっぷりと聞いてあげますわ」

 

「だから今ここは、少々見逃して下さいまし」

スタスタ

 


半ば唖然とする二人に、笑顔で手を振りながら。

 

ズルズルと、氷塊に連れられて。

 

これから起こる事柄に計算通りだと、私は悪い子供みたいに笑ってしまう。

 


 


賑やかな街の音が、薄暗い路地裏にその音色を籠らせた。

 

いきなり壁に押し付けられ、背後の痛みと体の快感に頬を染める。

 


「どういうおつもり、ですの?」ギロ

 


「え、えっと……何が?//」

 


「言ったはずですわよね?」

 

「"他の人間に抱き付くな"と」

 

「言葉も分かりませんこと?」

 


胸ぐらを掴む氷帝

 

その冷たく咎める眼差しに、全身が身震いする。

 

だって、ワイス。

 

今、私しか見てないんだもん。

 


「……///」ゾクゾク

 


「聞いてますの?」

 


「ううん//」フルフル

 


「………」

 

「……………そんなに」

 

 


我慢、できませんの?

 

 


「……」

 

「……えへへ///」

 


待ってたんだ、その言葉。

 

わざと、ワイスが嫌いな顔をして見せる。

 

口角を上げて、ヘラヘラと。

 


「うざったらしい……」パッ

 


胸ぐらを離されたのも刹那。

 


「きゃっ…」

 


右手首を捕まれ、壁に叩きつけると同時。

 


「んんぅっ……///」

 


「………」

 


「あ、んっ…う………////」

 


彼女の魅せる竜胆色の唇が、私のそれと重なりあっていた。

 


「んっっ…んぐっ、ぁ……/////」

 


冷たい。

 

涼しげな顔で熱く貪る彼女の舌が、私の奥底から這い出るような快感を促す。

 


「………」

 


「…ぷはっ//」


「はぁ、はぁ……」

 


ほんの数十秒。

 

忘れられた酸素を、反射的に流し込む。

 


「…はぁはぁ」

 


「…どうかしら」スチャ

 

「一方的に愛を押し付けられた気分は?」

 


「ぁ………////」

 


糸引く口元には目も暮れず。

 

外されたサングラスの向こうから、凍るように美しく鋭利な瞳が晒される。

 

蛇に睨まれた蛙の如く、私の体は完全に硬直して動かない。

 

瞳から目を反らすことも出来ず。

 

ただ眼前で見下ろす氷像に、恐怖と快楽で息を飲む。

 


「……もっと」

 

「して欲しいな……ワイス////」ニヘラ

 


「…………」

 

「これで何度目か、貴女は覚えていて?」

 


もう、何度目だろう。

 


「何度も何度も体に教え込ませているはずですのに、それでも尚飽きもせず……」

 

「貴女は私の手を煩わせますの?」

 


「………//」

 


あぁ、ズキズキズキズキ。

 

ドキドキドキドキ。

 

彼女は私しか見ていない。

 

私以外、目に映る存在なんていない。

 

低く威嚇するような声も、突き刺すような眼差しも、全て。

 

私にだけ、向けられているんだ。

 


「………え、えへへ/////」ニヘ

 


「………」

 

「まぁ、いいですわ」

 

「何度言っても分からないおバカさんは……」

ニヤリ

 

 


何度でも、粛清して差し上げますわ。

 

 


「んぐっ、んちゅ……ぁッ/////」

 


「………」フーフーッ

 


さっきとは、違う。

 


「ぁッ……んんっ、ぁん/////」

 


「………………」フーッフーッ

 


確かに、表情は変わらない。

 

だが目が、ゆらめらと燃えている。

 

一方的な愛は、フォークだってナイフだって使いやしない。

 


「ぁ、ぁ……ッんぅ///」

 


素手で、歯で。

 

千切って、掴んで、貪り食らう。

 


「………」

 


冷たい。

 

交わる舌が、そのままくっついてとれなくなる程に。

 

淫猥な水音が凝固する程に。

 

冷たくて、冷たくて、冷たくて。

 


(……あぁー……………////)

 


火傷しちゃいそう……。

 

でも、足りない。

 

もっと。

 

 

 

貴女の氷点下で、私を焼き焦がして。

 

 

 

ワイス。

 

 

「んぐ、ぁッん……///」

 


「………ン」スッ

 


「ん……ハぁッ///」

 


どれだけ時が凍っていたのか。

 

透明な橋が架かった途端、身体中の血液は一気に解凍し酸素を求めた。

 


「ぜぇ、はぁ……っはぁ//」

 


「………」ジッ

 


焼き蒸された体は、立っているのがやっとだと言うのに。

 

彼女、ワイスは平然とズレた制帽を直す。

 

あれだけ人をかき乱した人間とは、到底思えない。

 


「……少しは、反省したかしら?」ピッ

 


(……///)

 


口元を、親指で拭う。

 

その動作が本当に刺激的で。

 

ひたすら、見惚れる。

 


「………………フッ」

 


「?//」

 


「あぁあぁ……なんて、醜い顔」クイッ

 


「!///」


「わ、ワイス?//」

 


顎を持ち上げられ現れた顔は、歯を見せてイタズラに笑っていた。

 


「貴女、今自分がどのような顔をしているかお分かり?」

 

「チームRWBYのリーダーとは思えない、情けない赴きですわ」

 


「………」ペタッ

 


自分の口元に震える手で触れる。

 

口角が、上がりっぱなしだ。

 

荒い息が、熱い。

 


(ワイスの言った通りだ、私………)

 


きっと私は現在。

 

一人の女性として、してはいけない。

 

とても恍惚で、淫らな顔をしているのだろう。

 


「ルビー」

 


名前を呼ぶ唇が、いやに妖艶だ。

 


「貴女は、私の"物"」

 

「その体温、白い肌、魅力的な口元、私を映す銀色の美しい瞳……」

 

「……全て、私の大切な物」

 


冷たい指先が、私の頬を優しく這う。

 

対称的に、その目は笑っていなかった。

 

嫉妬、不安、庇護欲、優越、愛。

 

ごった煮で、どれが正解かなんて分からない。

 


「だから、その顔も私だけが大切に保管してあげますわ」

 

「貴女が私の言うことを聞けないのなら、私の手を煩わせると言うのなら……」

 

 

 


また私が、粛清して差し上げますわ。

 


おバカさん。

 

 

 


「…ッ!//」

 


その時見せた笑みは、ほんのりと温かく。

 

妙な安心感と興奮がゆっくりと漏れ出すような、そんな感覚がした。

 


「……………」

 

「……………………………////」

 


嗚呼。

 

やっぱり私は、囚われの身。

 

赤く腫れ上がる程に冷たい鎖、狭い狭い鳥籠は立つことも許されず。

 

貴女が常に目を光らせ、ひたすら与えられた愛に胸焦がす。

 


「…………はい/////」

 

 

抵抗なんてない。

 

 

それが、何よりも嬉しいの。

 

 

ねぇ、だから。

 

 

貴女もずっと。

 

 

私に囚われて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ワイス///」

 

                                              完