天は人の上に人を造らず。
人の下に人を造らず。
教科書にも載っていた。
偽りの言葉。
その続きを紡ぐ文章は、全く真逆の教え。
天は人の上に人を造る。
人の下に人を造る。
きっとこれが正解。
だってそうでしょ?
もし仮に最初の文章が合っていたとしたら。
今私の上にいる人々の影は何?
見上げた空は青く、透き通る。
ああ、綺麗だ。
見上げた空に輝く人々。
あぁ、醜い。
醜い。
醜い。
ミニクイよ。
君達のせいで。
この青空がとってもミニクイよ。
眩しいんだよ、君達は。
太陽は。
一つで充分でしょう?
私の上を行き交う人々は、皆輝いている。
彼らは原石を持っていた。
輝く理由はそれを磨いたから。
私は…。
彼らは他の人間から笑顔で話掛けられていた。
彼らは他の人間から頼られていた。
誰かは何かを生み出した。
誕生した物に人が群がり。
それらに目を輝かせる。
ふと、誰かが私にぶつかった。
私をはねのけたその先は、先程輝く石より生まれた新たな産物。
誰もが彼らを称えた。
その声はきっと、橋の下で聞く鉄道の音よりも遥かに小さい筈なのに。
私は激痛に耳をふさいだ。
うるさい。
ウルサイヨ。
嫌になって他の方を見た。
他の人間に称えられるそれは。
私よりも小さな。
子供だった。
彼は生まれながらに原石から輝きを見いだしていたんだ。
それは、ちょっと磨けば直ぐに輝いたことだろう。
きっと、あの子は将来。
更に輝きを放ち、人々を魅力するのだろう。
あぁ。
ウルサイ。
マブシイ。
ヤメテヨ。
もう、何処を見ても空はどうしようもなく輝いていて、ミニクイ。
涙が出そうになった。
もう、空を見るのは止めよう。
…。
視線落としたその先は。
私が造り出した異物の数々。
…。
笑いが出そうになった。
違う。
もう、笑ってしまいたかったんだ。
この、輝きを反射しない異物を。
足を乗せれば直ぐにでも潰れる脆い異物を。
「誰でも生み出せる簡単な作業の末に出来た、醜い異物の数々を」
私は。
膝から崩れ落ちた。
晴れた空から降り注ぐこの雨は、狐の嫁入りなんかじゃない。
これは、私の異物を溶かす酸性雨。
私には何も影響がない。
異物を溶かしてくれる。
とっても、お利口さんな。
「酸性雨」
雨降る元を辿ると。
そこには先程まで私が見上げて見ていた、輝き放つ彼らの姿。
雨は。
ここから降っているらしい。
あぁ、そうなんだ。
そっか。
そうだ。
名誉ある人間は。
名もなき人々の醜い異物を。
溶かすんだね。
偉いなぁ。
偉いよ。
これ以上ない位、ミニクく。
でも、残念。
彼らは。
気付いてないんだって。
彼らは知らないんだって。
自分達の雨で異物が溶ける事を。
その感触を、感覚を。
あぁ。
とっても残念。
私達下の人間だけが。
味わえる。
この屈辱。
あぁ。
ミニクイよ。
私は土砂降りの最中。
希望少なく、諦めた結果は見下ろす地面。
地面より下は何もない。
暗いけど、眩しくない。
綺麗じゃないけど。
醜くない。
結局、こうなんだ。
私は、硬い地面に手を付く事しか許されない。
流した涙は。
きっと土砂降りのせい。
…。
私はある事に気が付いた。
地面がうっすらと透けている。
私は、目を凝らして。
雨の匂いする透けた地面に顔を近づけた。
人がいた。
私の下に。
人間がいた。
彼らは、私を悲しげな目で見つめていた。
しかし、それは嫉妬などじゃない。
諦めた末の瞳。
更に他の所にも目を移す。
もう、20人数えた所でその多さに本能は数える事を止めてしまった。
いっぱいいる。
どうやら。
私の地面が最下層ではなかったらしい。
それは。
膝をつかなければ。
見えなかった世界だった。
世界見下ろす私は。
雨響くなか。
笑っていた。
これは、想定していた笑いとは違っていて。
どこか気持ちが良い。
心地良い。
ああ、気持ち良い。
初めて世界を見下ろすその感覚。
初めて人の異物を溶かすその感触。
それは。
あり得ないほどに。
気持ち良かった。
ひとしきり快感に身を包んだ後。
私は一息つこうと空を見上げた。
…。
誰かが。
私達を見下ろしていた。
ギョロリギョロリと目まぐるしく辺りを見渡すその顔は。
私と同じ顔をしていた。
私は、また笑ってしまった。
もう、この笑いは止まらない。
なぁんだ。
そうだったんだ。
私が見上げていた彼らも、私達を見下ろしていた。
私も彼らと同じ所があったんだ。
胸を撫で下ろし。
青空に涙を流した。
我々人間は。
「上を見るのが嫌」なようだ。