新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【ストーリー#1】夢すらも非情である話。

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蒸し暑さに体のダルけを感じる。

 

これでまだ夏真っ盛りでないと言うのだから、恐ろしい。

 

 

「どうしたの?」

 

「ん?」

「あぁ、いたのか」

 

「居るよ」

 

「それで、どうしたの?」

 

「…」

「君は…」

 

 

どんな夢を見る?

 

 

「突然だね」

 

「突然だよ」

 

「…そうだなぁ」

「対した物は特にないかな」

 

「そう」

 

「なんでそんな事を?」

 

「…」

「夢ってさ」

 

 

もっと上手くいくものだと思ってた。

 

 

「?」

「どういうこと?」

 

「現実世界はいつも非情でさ、上手くいかない事が9割以上で、なりたいもの、やりたいこと、合いたい人に合うなんてのは中々叶わない」

 

「でも」

「夢の中でなら、それが叶う」

 

「夢は現実じゃない、頭の中に創られた自分の世界」

「だから、きっと何でも出来る」

 

「なりたいものになってやりたかった事をして、合いたい人に合っちゃって」

 

「…」

 

「それが出来るのが夢だと思ってた」

「でも…」

 

「でも?」

 

「実際は違ったんだ」

 

「夢でさえ、上手くいかない」

 

「確かに夢だから、おかしな世界になってるよ」

「でも、それを除けば、実際は何もない」

 

「なりたいものややりたい事も途中で切られる、夢で更に増幅したトラウマを強いられる」

 

「…」

 

「夢でさえ、非情なんだ」

 

「現実は非情、夢も非情」

 

「夢でさえ…」

 

「それを考えだしたら、なんだか腹が立つような悲しくなるような」

「色々思ってしまうんだ」

 

「…そうなんだね」

 

「うん」

 

「ねぇ」

 

「?」

「どうかしたのかい?」

 

「貴女は、夢も現実も非情である、そう言ったよね?」

 

「あぁ、そうだ」

「言ったよ」

 

「じゃあさ」

 

 

今はどうなのかな?

 

 

「?」

「それは一体、どういう意味だい?」

 

「今、貴女は私と話をしている」

「その顔は、少なくとも現実を非情と思っている人間の顔ではないよ」

 

「…」

 

「フフッ」

「…そうだね」

 

「私は自分自身の顔を今見る事は出来ないが、君の顔を見れば大方予想はつく」

 

「あえて問うよ、私の顔を」

 

「なんで、自分で言えば良いのに…」

 

「自身の口から言うのは少々恥ずかしいのでね」

 

「そう…」

「ま、いいや」

 

 

その笑顔に対して問い返すのは無謀ね。

 

 

「きゃっ、何?!」

 

「私が、現実と夢を非情と思っている事は事実だよ」

「まして、夢は本当に救いがない」

 

「でもね、現実だけは例外が1つある」

 

 

君と一緒に居る時間。

 

 

「それこそが私にとって、非情な現実ではなくなる時間だ」

 

「そっか」

 

「うん」

 

「じゃあ、貴女が現実を非情さを感じる事はずっとないね」

 

「フフッ、どうしてだい?」

 

 

私がずっと側にいるから。

 

 

「こんなの、聞かなくても分かってるでしょ」

 

「…」

「そうだね」

 

「ありがとう」

 

「フフッ」

 

「どうしたんだい?」

 

「貴女の顔」

 

 

すっごく良い笑顔だよ。

 

                                            終