新崎Maskoff日誌

役に立たない話等を書いていく予定です。

【ウマ娘(オグテイ.テイオグ)】二つ蜜

f:id:Sinzaki-Maskof:20221105022036j:image

「ほわぁ~、広~い!!」

 

「ね、見て見て!」

「スッゴく大きい!」

 

「あぁ、そうだな」

 

眼前の少女が目をキラキラさせながら、私の方を振り向いてくる。


容姿も相まってか、はしゃぐ様子が小さな子供のようでとても可愛い。

 

「あ、そっか…」


「オグリは一度、ここに来てるんだよね…」

 

「…そうだな」

 

さっきと一変、今度はまるで様々な経験をしてきた女性のように儚げで、大人びていた。

 

「って、そんなこと今はどうでも良いよね!」


「さ、行こ!オグリ!」

 

「あ、あぁ…うん」

 

少々無理に造られた笑顔に引っ張られ、私達はスケート場へと入って行く。

 

(久しぶりだな、ここに来るのは…)

 

思い出せば最近、しかし実際には数年前の出来事。


一人のウマ娘と共に、私はここに一度来ていた。

 

「う~ん」

 

「どうしたんだ、テイオー?」

 

「スケートシューズってどんな感じに履いたら良いのか分からなくて」

 

「なんだ、そんな事か」


「ほら、私がやってあげよう」スッ

 

「ホント?」

 

「脚を出して」

 

「うん」

 

懐かしい、という感覚なのだろうか。


少女にスケートシューズを履かせ、紐を手際良く結んでいく。

 

彼女がやっていたのと、同じように。

 

『どうしたんだい、オグリ?』

 

『あ、あぁ…いや』


『スケートシューズを履くのは初めてでな、

その…履き方が良く分からない』

 

『あははっ、なんだそんな事か♪』


『ほら、私がやってあげるよ』

 

『す、すまない//』

 

まさか、私が彼女と同じ側になるとはな。

 

「出来たぞ」

 

「ホントだ!」

「ありがと、オグリ//」ニカッ

 

「なに、大した事じゃない」

 

笑顔でお礼を述べる君が眩しい。


本当に大した事ではないのに、そんなにも良い笑顔を、可愛い笑顔を受け取ってしまって。


良いのだろうか。

 

「行こうか、テイオー」スッ

 

「うん!」

 

私は椅子に座る少女に手を差し伸べ、体制を崩さぬようゆっくりと立ち上がらせる。


スケートリングへとエッジを下ろすと、金属と氷が入店の合図を鳴らした。

 

「あわわ!」

 

「っと、大丈夫かテイオー?」

 

「大丈夫、ちょっとコケちゃいそうになっただけだから」アハハ…


「それよりオグリ、ぜ…絶対に離さないでよ」

 

そう言って私の両手をギュッと握る少女は、堂々たるいつもの姿勢は何処にといった様子。


生まれたての小鹿みたいに脚をプルプルとへっぴり腰で、なんとか立っている。

 

「テイオー、もう少し背筋を伸ばさないとダメだぞ」

 

「そんなこと言ったって、ボクスケートするの初めてなんだもん!」

 

「だがそれでは、かえって滑られなくなるぞ」


「ほら、少しずつ背を伸ばすんだ」

 

私よりも幾分か温かい少女の手を握り返し、優しく諭す。


野生動物の警戒を解くように。

 

「こ、こう?」プルプル

 

「そうだ、ゆっくり…ゆっくりと、だ」ニコリ

 

「…///」

 

「?」

 

少女は顔を赤くし、目を反らす。


まだへっぴり腰の為強く握る手は汗ばむ事はなく、暑い訳ではない。

 

「どうした、テイオー?」

 

「いや、その…なんというか//」


「オグリの優しい教え方と顔が、凄くボクには照れくさいというか…///」

 

「なるほど…//」

 

赤い顔でそう告げる君に、私も伝染を起こして頬を染めた。

 

「そ、それで//」


「次は、どうすれば良いの?」

 

「えっと、そのまま…もう少し背を伸ばして」

 

場所は上々、だが今はバランスを保つ者と小鹿。


赤くなり続けるには少々無理がある。

 

「こ、こんな感じかな?」

 

「あぁ、良い感じだ」

 

ようやっとまともに氷上に立っていられるようになった少女は、私の言葉に得意気に笑う。

 

「よし、じゃあ次は滑る練習だ」


「まずはゆっくり足を開いて…」

 

「足を開いッあわわ!」スペペ

 

とすん、なんとか支えようとしたが無念。

 

「イテテ…」

 

「大丈夫か、テイオー?」

 

「むぅ~、ボクにはスケートは難しいよ…」

 

零度の地面にそのまま座り込み不貞腐れる少女から出るのは、白息ではなく悲観。


膨らませた頬が、タマの作るたこ焼きのように丸く艶やかだった。


そんな様子が幼児的で、可愛い。

 

「…なら、試しに私がお手本をみせるよ」ニコ

 

「オグリが!」キラキラ

 

たこ焼き弾けて出現したのは、タコではなくキラキラと期待に溢れた宝玉だった。


それは、私にとってこれ以上ないギャラリー。

 

「あぁ」ウナズキ


「…では、いくぞ」

 

額を軽く叩き、気合いを入れる。


いつものルーティンだ。

 

「…」スー

 

滑り出し、やがて風を感じ、空を廻る。

 

「ほわぁ…!」キラキラ

 

眼差しの声援に答えるべく、廻り廻り廻り、屋根で風受ける鶏のように。

 

冷気を、帯びて帯びて帯びて。

 

「…」ポーズ

 

零度の彫刻が完成した。

 

「ふぅ…」

 

いつの間にか増えていたギャラリーから拍手を受け、久しぶりに一呼吸。

 

(………)

 

私も決して、最初から滑る事が出来た訳ではない。

 

彼女に優しく、手取り足取り教えてもらった賜物だ。

 

『そう、ウマいぞ…オグリ』エや下

 

『ほ、本当か?//』

 

『勿論だ』


『君はやはり、物覚えが良い』ニコ

 

『そんなことはない、教え方が上手いからだ』

 

『あはは、ありがとう♪』

 

 

『…』

 

『どうした、オグリ?』

 

『いや、なんだ…やはりスケートは一筋縄ではいかないな……』


『どうしても、足を引っ張ってしまう…』ミミタレ

 

『…フッ』

『なんだ、そんな事か』

 

『?』

 

『私は、君に教える事を苦だとはひと摘まみも思っていない』

 

『!』

 

『それどころか私は君と滑る事が出来て、今…とても幸福だ//』ホホエミ

 

『…!///』

『そ、そうか////』

 

『…ありがとう』

 

『ルd※%#?&_』

 

 

「…リ?」

 

「オ………リ……………!」

 

「オグリってば!!」

 

「!」ハッ

 

愛おしい君の呼ぶ声で、ノイズ混じりの記憶はぶつ切りにされた。

 

「テイオー?」

 

声の主たる少女が、心配そうな瞳で私を見上げている。

 

「大丈夫?」


「ボーっと突っ立ったままだから心配しちゃったよ」

 

どうやら私は、過去の記憶に意識を取られていたらしい。

 

「すまない、大丈夫だ」

 

「そっか…良かった」ホホエミ

 

安否を聞くや否や笑みを浮かべる君の顔は、彼女の面影を感じる。

 

「それより、やっぱり凄いよオグリ!」


「シャーって滑って、ピョンで、クルクルーって!」


「すっごくカッコ良かったよ、オグリ!」

 

「そうか…ありがとう//」

 

わざわざ身振り手振りで熱弁する少女の半角声が、可愛らしく。


どうしても、私の心に熱を伝導させる。

 

「!」

「スケートしてる時のオグリ、まるでツルみたいだった!」ドヤッ

 

「?」

「ありがとう」

 

「…」

「スケートだけに!」ドヤッ

 

「…」

「…???」

 

「……………」

 

沈黙が私の何かが欠損していたことを知らせるが、分からない。


今の言葉に、一体どんな真意があるのか。


考えれば考える程、それを見る少女の瞳が冷たくなっていく。

 

「練習の続き、しよ」

 

「…そうだな」

 

 

「ふぅ~、楽しかった!」

 

摩擦の無い世界から出て踏みしめる地面は、何故だか少し違和感を感じる。


たった数時間の内に、足裏は当たり前を氷上に書き換えてしまったとでも言うのだろうか。

 

「今日だけであんなにも上達するなんて、凄いぞテイオー」ナデナデ

 

「あ、えへへ///」


「オグリの教えるのがウマいからだよ//」

 

あの後も続けた練習の成果は予想外で、少女は並みに滑る事が出来るようになった。

 

「この調子ならきっと、もっと上手くなるぞ」ニコ

 

「ボク、頑張る!」フンス

 

「あぁ、また来よう」

 

耳先含めても私に届かない少女。


並ぶ私達はどう見えるのだろう、姉妹か親子か。

 

「あ!」ダッ

 

「テイオー?」

 

放された手が、名残惜しさを覚える。


振り向く君に、伸ばす手を引いた。

 

「はちみー!」

「はちみー、発見だよ!」キラキラ

 

「はちみー…確かテイオーが好きな飲み物だったかな?」

 

少女が指差す先には、一台の移動販売車が甘い魅惑を売っていた。


のぼり旗にはドデカい文字で「はちみー」とプリントされている。

 

「はちみー、飲まずにはいられない!」ビシッ


「オグリ、はちみー一緒に飲もう!」

 

「そうだな」


「折角だから、ベンチで休憩がてら飲もう」

 

「よし、それじゃはちみー目指して出発!」ダッ

 

言うと、少女は凄まじい速さで向かっていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「…!」

 

私が慌てて追いかける背中は、先程まで隣にいた可愛いらしい少女ではなく。


レースを走る、一人の競走馬だった。

 

「……ルナッ…」

 

思わずもれた、彼女の名前。

 

どこまでも、似ているんだ。

 

再び伸ばす手は、離れて行く彼女を掴むことは出来ない。

 

君じゃ、ないんだ。

 

「もう、遅いよオグリ!」プンスコ

 

「すまない」


「いや、テイオーが速すぎるんだ…」

 

「当たり前でしょ、はちみーはボクの命と言っても過言じゃないからね♪」

 

怒ったり、笑ったり。


コロコロと表示が変わる君が、きっと好きだ。

 

「はいこれ、オグリのね♪」

 

「ありがとう、テイオー//」

 

テイオー曰く、初心者オススメのスタンダードを選んでくれたらしいはちみー。


固め濃いめ多め、は私にはまだ早いとのことらしい。

 

「…命……か………」ジッ

 

「?」

 

食べ物を自身の心臓とすら思えるその心意気。

 

(素晴らしい…)シミジミ

 

「???」

 

 

「ん~!」

「遊んだ後のはちみー最高~!」

 

近くのベンチに腰下ろす私達、隣に座る少女が両手を掲げて叫んだ。


私でさえまだ引き出せない笑顔。


飲料に先越されてしまったことに悔しさを抱かない訳ではないが、この表情が見られるだけで今は幸せだ。

 

「ささ、オグリも飲んでみてよ!」

 

「あぁ」ウナズキ


「いただきます」ズズッ

 

「…美味しい」ボソリ

 

「でしょでしょ!」

 

蜂蜜の甘さが、花畑に吹く心地よい風のように口いっぱいに広がる。


だが、喉を通過する頃にはレモンの爽やかさが甘さを消し、くどさを無くす。


甘さを欲し、甘さを無くし、また甘さを欲する。


いつまでも味わっていたい、飽きさせることのない絶妙な甘美。

 

「なるほど…」

 

(テイオーが命だと言うのも頷ける美味しさだ)

 

「何度でも飲みたくなる美味しさだな」ズズッ

 

「えへへーん!」ドヤッ

「オグリ~、良く分かってるじゃ~ん♪」

 

なんて言いながら、肘で小突く君のイタズラな顔に思わず笑みがでる。

 

「…」

 

だけど。


こんなにも、はちみーが美味しいのは。

 

「…」ズズッ

 

「~♪」チュウチュウ

 

「…フッ」

 

きっと、君が最後の味付けを飾っているからだ。

 

「…」ズズッ

 

君は、最高のスパイスなのだろうな。

 

「…フフ」

「…」ズズッ

 

「…」


「ねぇ、オグリ」

 

「?」ズズッ

 

 

「…キス……しよ?//」

 

 

「?!!」ボハッ

「ゲホッ  ゲホッ」

 

静寂に訪れた爆弾は、爆風を巻き起こし私の器官に被害をもたらす。


鼻が蜂蜜畑だ。

 

「ちょ、ちょっと!」

「オグリ、大丈夫?」オロオロ

 

「あ、あぁ大丈夫だ…問題ない」ゲホッ

 

鼻が…痛い。

 

「もう~、何そんなにビックリしちゃってるのさ…」


「いつもしてることじゃん」

 

老人に寄り添うように優しく、私の背中を撫でる少女が呆れている。


そうだ。


キスは、今日が初めてじゃない。

 

「それはそうだが…」


「突拍子もなく言われては、驚くのが当然だ」

 

「え~、そんなものかな?」

 

「それに、ここは外なんだが…」

 

「でも、誰もいないよ?」

 

聞こえるのは草木の囁き声。


しかし問題はそこではなく、野外での接吻は流石に恥ずかしい。


それに、誰が通るやも分からない。

 

「何故、今なんだ?」

 

「えっ//」


「いや、それは…別にそんな深い意味はないんだけどね?……//」

 

「うん」

 

「ただ、なんとなく…したいんだ……//」

 

指で作る可動橋が、上がったり、下がったり。


頬はほんのり赤く染まる。

 

「なるほど…」

 

「ね、良いでしょ?……//」テ ギュ

 

「…//」

 

白く細い指が私の指と絡まって。


物欲しげに見つめる目が、とても妖艶で。

 


君が人生の一人目ならば、きっとその魅了に溺れていただろう。

 


「…」

「一回だけ、だぞ…//」

 

「うん…//」

 

近づく、肉。


何故こうも。


引け目が私を睨むのだろう。

 

…。


目を反らす。

 

 

「「…んっ//」」チュ

 

 

重なる唇が、私に罪悪感を与えるんだ。

 

「…」

 

君と初めてキスをしたあの日、私の体は違和感なく受け入れた。


…知っていたんだ、その感触を。

 

 

「…//」

 

「…えへへ、はちみーの味がした///」

 

「…そうだな……」

 

はにかむ少女の笑顔は、舌が感じた蜜よりも甘くて、濃厚に思える。

 

「…」

 

でも今は、苦さを強く残してしまうんだ。

 

同じなんだ。

 

この感触、彼女のそれに。

 

『オグリ…』ズイッ

 

『ル、ルナ...//』

 

『…』チカヅキ

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ///』

 

『どうした、緊張してるのかい?』

 

『私は、キスなんて生まれてこのかた一度もしたことがないんだ…///』

 

『そんなことか…』


『安心してくれ、それは私も同じだ//』

 

『そう…なのか?』

 

『あぁ、だから…』

 


『私も今、鼓動が鳴り止まないよ//』

 


重なる印肉のリップ音。


初めて味わった、蜜の味。

 

『オグリッ…//』

 

『ル…ナッ…///』

 

やがて甘ったるさをました甘美は、ドロドロとその粘度を増していく。


私達は、互いに肉を絡ませ。


ただ…ただ、ひたすらに。

 


互いを、貪った。

 


「オグリ?」

 

「…………」

「………………ルナ…」

 

「ねぇ、オグリってば!!」バシッ

 

「!」ハッ

 

強く背中をノックされ開いた扉から、私は引きずり戻される。

 

「…テイオー」

 

また君は、過去に沈んでいく私を救ってくれたのだな。

 

「すまない…」

 

「もう、急に1mmも動かなくなるし、目は虚ろだったし、話しかけても反応しないし…」


「心配したんだから!」プンスコ

 

頬を膨らます少女の言葉が、耳に痛い。

 

「ごめん、少し…考え事をしてしまってな……」

 

「………」


「もしかして、オグリ…」

 

 

「会長の事…考えてたんじゃないの?」

 

 

「?!」

 

少女の横顔は、悲しげに。


発する言葉は、重く。


私の心臓を、握る。

 

「…」

 

彼女は他生徒から様々な呼び方をされているが、この少女は会長と呼び慕う。

 

「それは…」

 

伝う冷や汗は、焦りか、恐怖か。

 

「やっぱり、そうだったんだ」

 

はちみーを見つめる君の瞳が、私の心臓を締め付ける。 


少女の哀愁を含んだ瞳が、心臓に針を一刺し、また一刺し。


見たくなかった、そんな顔は。

 

「…ねぇ、オグリ………」

 

「な、なんだ?」

「…テイオー……」

 

「オグリはさ………」

 


ボクと会長、どっちが好きなの?

 


「…そ……………」

「……それは………………ッ」

 

少女が私を見つめている。


その目に、喜怒哀楽が感じられない。


何故だか、目を反らす事が出来ない。

 

「それ…は……」

 

憂鬱な空色に、吸い込まれてしまいそうだった。

 

「…」

「…いいや……」ボソリ

 

「えっ?」

 

「もう、いいや」

 

重くのしかかる何かが消え、いつもの優しい声色が私を困惑させる。


少女の瞳から私がフェードアウトした。

 

「それは、どういう…」

 

「ボクね、凄く嬉しい」


「オグリと居られる今が、堪らなく楽しい」


「だから、ね…」

 

優しく微笑む君の水晶体が、私を微かに歪ませている。

 

「それだけでボクは、充分幸せなんだ…//」ニコ

 

「…テイオー」

 

「あはは」

「ごめんね…難しいこと聞いちゃって」

 

まるで、子供を諭すように。


悩める羊を導き、宥めるように。


そう言って立ち上がった少女の横顔は。

 

悲しげに、曇っていた。

 

「さーてと…そろそろ行こっか!」

 

「…ぁ」

 

「ほらほら、置いてっちゃうよ?」ニカリ

 

差し伸べられた手の平が、君の慈愛に満ちたような眼差しが。


私により罪の意識を植え付ける。


グリグリと、体の中央へ押し込まれ。

 

「あぁ、うん」ギュ

 

二度と、引き抜くことはできまい。

 

「…なぁ、テイオー」

 

「何、オグリ?」

 

あの時、何故答えが出てこなかったのだろう。

 

「…//」ギュッ

 

「…!//」

 

嘘でも良いから、君を選びたかった。

 

「このまま、手を繋いで帰らないか?」

 

だが、駄目だった。


…分からなくなったんだ。

 

「…//」パァ


「うん!//」ニコリ

 

私は本当に、君が好きなのか。

 

「…えへへ、あったかい//」

 

ただ君から感じる、彼女の面影を好いているだけじゃないのか。


ただ君を、彼女の代わりにしてしまっているだけじゃないのか。

 

「そうだな//」

 

そう考えたら言葉が。


…詰まってしまったんだ。

 

「………」

 

 

だから、もう少しだけ。


後少しだけ、待っていて欲しい。

 

これから君と過ごす日々。


そこで私は、自分なりの答えを見つけ出して見せるよ。

 

「~♪」ルンルン

 

「テイオー」ギュ

 

「ん?」

 

そして必ず、問う君に提示する事を誓おう。

 

勿論、その時は。

 

君を笑顔に出来る返事を、きっと。

 

 

…だから。

「その日まで少しだけ…待っていてくれないか?」ニコ

 

「…オグリ」


「………フフッ//」

 

嬉しそうにはにかむ横顔は、まるで小さな子供のように愛らしく。

 

「うん…わかった」


「ボク、待ってるからね…//」ニコリ

 

それでいてとても色よく、私の鼓動をなり止ませない。

 

「…フッ」


「ありがとう、テイオー」

 

あぁ…。

 

やはり私は。

 

 

 

 


君の笑顔が、好きだ。


                                              完

 

 

おまけ。


「!」

 

君と歩く帰り道。


柔らかな手の感触が、私に幸福とは別の何かを投げかける。

 

「なるほど!」

 

「えっ、いきなりどうしたのオグリ…?」

 

突っかかっていたボールがストンと落ちたような衝撃。

 

「さっきのテイオーの言葉は、氷をツルツル滑るという表現と動物の鶴(ツル)をかけたダジャレだったのだな!」パァ

 

「…?」


「ツ、ツル…?」

 

「あぁ、そうだ」

 

ようやく脳に解答(かいとう)が示された。

 

『スケートしてる時のオグリ、まるでツルみたいだった!』ドヤッ

 

「…!」


「もしかして、あの時言った…」

 

「そう、あれだ!」

 

「…」

「いや、遅いよ!」ビシッ

 

少女は透かさず、私に手の平をぶつける。


そのツッコミのキレたるや、タマにも負けず劣らずの光る物を感じることができた。 

 

「流石に今気付いても、冷めちゃってるよ!」

 

「す、すまん…」

 

(………!)

 

閃きとは、突然に。


冷めてしまった洒落はレンジへと。

 

「なぁ、テイオー」

 

君の渾身のギャグに、私も答えよう。

 

「なに?」

 

 


「先程のテイオーのギャグ、氷だけにとても滑っていたぞ!」ニコッ

 

同じテーマで、私は返す。

 

「………」

 

「…………」

 

悟った。


私は、間違っていたことに。

 

 

その後、帰宅しても尚少女は口を聞いてくれなかった。


私は、洒落が嫌いになった。


                                             甘